着床前染色体異数性検査(Preimplantation Genetic Testing for aneuploidy; PGT-A)について(その③)

今回はPGT-Aの課題について4つお話します。

①細胞を採取することによる受精卵へのダメージ
②モザイク胚の取り扱い
③正診性
④児の長期フォロー

①以前、PGT-Aのための細胞の採取は主に8細胞期で行われていました。8細胞期で細胞採取をした場合、細胞採取をしなかった場合に比べて着床率が39%低くなり、8細胞期で細胞を採取することで受精卵が大きくダメージを受けることが示されました。現在主流となっている胚盤胞で細胞採取をした場合の着床率(51%)は、細胞採取をしなかった場合の着床率(54%)に比べて差はなかったと報告されています(Scott RT Jr, et al. Fertil Steril. 2013. PMID: 23773313 Clinical Trial.)。しかし3%とは言え、細胞採取をすることにより着床率の低下が見られることから細胞採取によるダメージはゼロではないと考えられます。

現在、胚盤胞にダメージを与えない様、非侵襲的な方法で検査をする方法の開発が進められています。使用するのは胚盤胞を培養していた培養液、あるいは、胚盤胞内部に蓄えられている胞胚腔液です。現在のところ、一致率は30-40%と報告されているので、これらの技術の発展を大きく期待したいところです(Vera-Rodriguez M et al, Hum Reprod. 2018 Apr 1;33(4):745-756. doi: 10.1093/humrep/dey028.)(Tšuiko O et al, Fertil Steril. 2018 Jun;109(6):1127-1134.e1. doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.02.008.)。

②モザイクは正常な細胞と異常な細胞が混在している状態です。一例を挙げます。6個の細胞を採取した時、3個は正常、3個は異常と判定された場合、モザイク率は50%となります。一般的に、モザイク率が<20%の場合は正常、20-80%の場合はモザイク、80%<の場合は異常と判定されます。

胚盤胞を構成する細胞の正常・異常の分布を調べた結果、以下のように6パターンに分かれたことが報告されています(Tzu-Hsuan Chuang, Mol Hum Reprod. 2018 Dec 1;24(12):593-601. doi: 10.1093/molehr/gay043.)。

Tzu-Hsuan Chuang, Mol Hum Reprod. 2018 Dec 1;24(12):593-601. doi: 10.1093/molehr/gay043.を改変

上段左は胎児細胞も胎盤細胞も全て正常、上段真ん中は胎児細胞も胎盤細胞も両方異常、上段右は胎児細胞も胎盤細胞も両方モザイク、下段左は胎児細胞がモザイクで胎盤細胞は正常、下段真ん中は胎児細胞が正常で胎盤細胞はモザイク、下段右は胎児細胞が異常で胎盤細胞はモザイクというパターンです。胚盤胞の中にある数字は29個の胚盤胞を調べた結果、それぞれのパターンが含まれていた割合を示しています。上段左の完全な正常胚は28%しかなく、完全な異常胚が52%もあったことが驚きです。

こちらは8番目の染色体が2.5本あるため50%モザイクトリソミー(検出された細胞の半分の8番染色体は2本、残り半分の細胞の8番染色体は3本と判定)と判定されます。

Victorらはモザイクと判定された胚を移植した後、30%は妊娠継続・出生に至っていることを報告しており、モザイク胚が出生に至った原因として、

1. 胎盤細胞の採取によるPGT-Aは受精卵全体の核型を反映していない
2. モザイク率は採取場所や胎児細胞/胎盤細胞で異なる
3. 細胞採取と検査の過程で起こる技術的な失敗によるモザイクの誤診
4. 異数性細胞の増殖能低下やアポトーシスによる自己修復

を挙げています(Victor AR, Fertil Steril. 2019 Feb;111(2):280-293. doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.10.019.)。

また、PGT-Aを実施したにも関わらず正常胚がなく、モザイク胚を戻した18人の患者さんのうち6人が健常児を出産したという報告もあることからも(Greco E, N Engl J Med. 2015 Nov 19;373(21):2089-90. doi: 10.1056/NEJMc1500421.)、モザイクと判定された受精卵の取り扱いについては課題が多く残されており、今後、臨床データの蓄積と議論をする必要があります。

③患者背景の影響が出にくい提供卵子を用いたPGT-Aの検査結果を体外受精施設間で比較した結果、施設間で正常胚の割合に違いが見られたことが報告されています(Munné S, Hum Reprod. 2017 Apr 1;32(4):743-749. doi: 10.1093/humrep/dex031.)。また、別の報告では施設間でモザイク胚の割合に違いが見られたことも報告されています(McCulloh DH. et al., FertilSteril. 2016 Oct;106(3):e156-7.)。

Preimplantation Genetic Diagnosis International Society(PGDIS)はモザイク胚に関する見解として次のように示しています(PGDIS Newsletter, May 27, 2019)。
1. 施設当たりのモザイク胚率が10%を超える場合、排卵誘発法、培養法、解析法の見直しが必要
2. 細胞採取では5-10細胞採取する、また、細胞同士の接着面で切り離す
3. 異なる解析技術では結果が一致しないので特定のPlatformを使用する
4. 限局した細胞採取は残りの細胞の核型を反映しない

施設間で検査結果に違いがあることを知っておくことも重要と考えます。

④Winterらは2014年、5-6歳時の心理社会的発達過程はPreimplantation Genetic Diagnosis(PGD)群、顕微授精群、自然妊娠群で同等であったことを報告しています(Hum Reprod. 2014 Sep;29(9):1968-77. doi: 10.1093/humrep/deu165. Epub 2014 Jul 3.)。また、同著者らは2015年、PGDにより出生した児の就学前の認知発達度は顕微授精群、自然妊娠群と同等であったことを報告しています(Hum Reprod. 2015 May;30(5):1122-36. doi: 10.1093/humrep/dev036. Epub 2015 Mar 6.)。現在のところ、胎児の出生後の短期フォローで異常は見られないようです。今後、長期フォローをした報告が待たれます。

3回に分けてPGT-Aについてお話しました。受精卵のPGT-Aで分かること、この検査がどのように行われるのか、メリット・デメリット、課題を少しでも知って頂けたら幸いです。

文責:平岡謙一郎(培養室)

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