新しい慣性体を用いたピエゾICSIは従来の顕微授精に比べて優れているのか?(論文紹介)

昨日のブログ記事で紹介した論文を紹介致します。
これまでにピエゾICSIと従来の顕微授精を比較した論文は6報ありますが、全て日本人が発表したもので、海外でピエゾICSIの有効性を調べた論文は今までありませんでした。今回紹介する論文は、ピエゾICSIの有効性を日本以外の国、オーストラリアで初めて調べたものになります。ピエゾICSIでは慣性体と呼ばれる比重の重い物質を使用する必要がありますが、今回の論文では従来使われていたものとは異なる新しい慣性体を使用したことも世界で初めてです。

≪論文紹介≫

Zander-FoxらRBMOnline.2021. DOI:https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2021.05.020

卵子が6個以上採れた患者さん69人をランダムに2グループに分け、半分のグループはピエゾICSIを、もう半分のグループは従来の顕微授精を行いました。
結果:
ピエゾICSIと従来の顕微授精の受精率は80.5±2.3%と65.8±2.3%、変性率は4.4±1.3%と8.6±1.2%となり、いずれの比較においても、ピエゾICSIが有意に良好な結果を示しました。また、ピエゾICSIのグループは受精率が上がったことにより、患者さん一人当たりの平均良好胚数は従来の顕微授精に比べて有意に多くなりました(3.8±0.2個vs.3.1±0.2個)。妊娠率は両グループで同等であったことから(ピエゾ:57.1%、従来の顕微授精:60.0%)、著者らはピエゾICSIを行うことにより、1回の採卵当たり約1個多く有効な胚が得られることから累積妊娠率が改善されることが期待されると結論付けています。

≪私見≫

これまでにピエゾICSIと従来の顕微授精を比較した論文は6報ありますが、全て日本人によるもので、全ての報告においてピエゾICSIの方が従来の顕微授精に比べて良好な成績であったとしています。今回のオーストラリアからの発表においても同様で、海外で初めてピエゾICSIの有効性が示された貴重な発表になります。また、以前のピエゾICSIに関する発表では慣性体として、水銀、または、フルオロカーボンが使われており、いずれも人体や環境への影響が心配されていました。今回の論文では、眼科の手術にも用いられるパーフルオロンを慣性体として世界で初めて使用したことから、ピエゾICSIをより安全に行えることを示したことでも貴重な発表であると感じています。

文責:平岡謙一郎(培養室長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張