卵巣予備能が低下している女性は、胚盤胞の正常核型率は低下するの?(論文紹介)
卵子の数と質は関連するかは意見が分かれています。
一般的なコンセンサスは卵巣予備能の低下により卵子の質の低下をもたらさないという考えです。昨年出た卵巣予備能に対してのASRM committee opinionでも卵巣予備能は一般不妊での出生率を予測しない、体外受精の回収卵子数の増加と、体外受精を実施した際の出生率の弱い増加と関連する程度と報告されているのは、「数≠質」という考えからです。そして、着床前診断の結果も同様に2012年から2016年にかけて38歳未満の女性のAMHが10パーセンタイル未満の患者345名と、25~75パーセンタイル(IQR)の患者1758名を対象とし卵子の数と質の違い(胚盤胞率、異数性率、生児出生率)を後方視的に検証し、体外受精開始周期前の卵巣予備能検査や採卵による回収卵子数の低下から卵子数が少ないと考えられる38歳未満の女性は、卵子数が正常な女性と比較し同等の胚盤胞率、正常核型胚率、euploid胚移植あたりの生児出生率を示し、これまでの考え方を踏襲した結果となりました。(S J Morinら. Hum Reprod. 2018. DOI: 10.1093/humrep/dey238)
ただ、卵子の数が減ると良い卵子の絶対数も減るはずという考え方も根強く残っており、今回の論文は卵巣予備能が低下している女性は、胚盤胞の正常核型率は低下することを報告した初の論文です。
Eleni Greenwood Jaswaら. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.051
≪論文紹介≫
後方視的なコホート研究で2010年から2019年にかけて、19~42歳の女性1,152名が1,675周期の体外受精、8,073個の胚盤胞から異数性を調べる着床前検査を実施しました。評価項目は正常核型胚の発生率(正常核型胚盤胞の数を体外受精周期ごとの生検胚盤胞の数で割ったもの)としました。
全ての卵巣刺激はゴナドトロピン注射150-450単位を連日使用し、17mm以上の卵胞が2つ育った段階で排卵誘発(メインはhCG 10000単位とFSH 450単位)を行いました。胚盤胞生検の時期は採卵後5日目でGardner分類が3BB以上であることとし、拡張しなかった胚はさらに24時間培養し完全な胚盤胞期に達していない胚はすべて廃棄しました。
結果:
ボローニャ基準をみたした卵巣予備能が低下している女性(DOR女性)は225名(20%)で、DOR女性はnon-DOR女性に比べ、年齢は高く(39.5歳対37.0歳)、正常核型胚の発生率が低くなりました(29.0%対44.9%)。
年齢を考慮した一般化線形モデルでは、DOR女性はnon-DOR女性に比べ、生検胚盤胞がeuploidである確率が24%低くなりました。年齢を調整したMII卵子回収数が下1/4の女性とした二次解析でも同じ結論となりました。DOR女性、non-DOR女性とも正常核型胚を移植した場合の生産率は有意差がありませんでした(n = 944 移植、56.8%対54.8%)。
結論:
DOR女性はnon-DOR女性を比較し獲得できた胚盤胞は、年齢を調整した後でも正常核型胚である可能性が低くなります。卵巣予備能の評価は、相対的な卵巣の老化(卵子の質)に影響を及ぼしているかもしれません。
≪私見≫
卵巣予備能の低下は卵子の質とは関係ないと説明をしていますが、卵子数が少ない人と多い人(同年代)で赤ちゃんになれる卵子の数は一緒だけ残っていますか?と患者様に問われると、わからないという答えしか持ち合わせっていません。
今後、ますます質と数の研究は進んでいくと思いますので、随時アップデートしていきたいと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。