子宮放射状動脈血流は反復流産患者の生児獲得を予測する?(論文紹介)

子宮放射状動脈血流は周産期の管理中には以前より測定されていましたが、生殖医療分野でも内膜が薄い症例や血栓素因がある女性などで測定される機会があります。この論文は「子宮放射状動脈血流は反復流産患者の生児獲得を予測する?」というテーマで排卵期から32週まで2週間ごとに子宮放射状動脈血流を測定しつづけた面白い報告です。

S H Baoら. Biomed Res Int. 2019. DOI: 10.1155/2019/8787010.

≪論文紹介≫

ドップラー超音波による子宮放射状動脈血流の抵抗指数(URa-RI)は、子宮胎盤の血流の変化を反映し、妊娠初期の有害事象と関連している可能性があります。
反復流産は血栓性疾患と関連しており、低分子量ヘパリンによる抗凝固療法は妊娠転帰を改善します。
シカゴの産婦人科で2009年12月から2013年12月までの間に3回以上の反復流産既往があり血栓素因がある妊婦139名を対象に、後方視的に検証しています。生児を獲得した女性116名と流産に至った女性23例を対象に、妊娠転帰とURa-RIの動的変化との関係を解析しました。患者は、妊娠前から低分子ヘパリン、低用量アスピリン(1日81mg)、プレドニゾン治療を受けていました。URa-RIは、排卵周囲時間、妊娠検査陽性時に測定し、その後、妊娠32週目または流産時まで2週ごとに繰り返し測定しました。
妊娠8週目のURa-RIは、流産に至った女性の方が生児を獲得した女性に比べて有意に高くなりました(0.51±0.08 vs. 0.42±0.03、P<0.001)。ROC曲線では、妊娠8週目のURa-RIのAUCは82.6%(95%CI 69.01-97.17)で、流産女性と生児獲得女性で有意差を認めました。女性年齢、BMI、流産回数などで多変量解析をおこなったところ、妊娠8週目のURa-RIが0.1単位増加するたびに流産リスクが18.7ポイント増加しました(OR19.70、95%CI 4.26-91.1、P<0.001)。妊娠8週のURa-RIが0.45以上の女性は、URa-RI 0.45未満の女性と比較して流産のオッズ割合が49.48(95%CI 8.01-307.95、P<0.001)でした。反復流産および血栓素因を有する女性では、妊娠8週目のURa-RIの上昇は、抗凝固療法中であっても自然流産と関連していました。

≪私見≫

正常な妊娠では、胚栄養膜は対立・接着のあと、内側の栄養膜細胞層(cytotrophoblast)、外側の栄養膜合胞体層(syncytiotrophoblast)に分化。栄養膜合胞体層が子宮内膜上皮を通って子宮筋層内側1/3に浸潤し螺旋動脈を形成し胎児への酸素および栄養素を母体から届けることが可能になります。ただ、浸潤に失敗した場合、螺旋状動脈は筋弾性コーティングを保持し、血流へのインピーダンスを維持することでRIの増加をもたらしてしまいます。
つまりURa-RIは胎盤・絨毛形成不全に予知する因子と考えられます。
ただ、この論文を通して考えられることは、当症例は流産になるからURa-RIが高いのか、URa-RIが高いから流産になるのかは不明です。また、当症例では妊娠前から低分子ヘパリン、低用量アスピリン(1 日 81 mg)、プレドニゾン治療をしていてもURa-RIが上昇し流産に至っていますので、何をすれば救えるのか?
少なくとも抗凝固療法以外の手段を検討しないといけないことが考えられます。
本当に胎盤・絨毛形成は奥が深い。。。学ぶことばかりです。

文責:川井清考(院長)

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