患者さまからの質問:「私のような患者はここでは妊娠していますか?」

患者さまから、外来中や説明会後のアンケートで次のような質問を受けることがあります。「私のような患者はここで妊娠していますか?」

私は体外受精患者さまをメインに診療にあたることが多いので、ご質問をされる方は次の4つのケースがほとんどです。
(1)体外受精にふみだせない場合でふみだすかどうか迷っている場合
(2)女性の年齢が高い場合
(3)他院から転院されてきた場合
(4)反複不成功の場合
これに対して私は次のように回答しています。

(1)(2)に関しては、女性年齢が40歳までの患者さまであれば前向きにステップアップを勧めています。41ー43歳の方の場合は体外受精の回数が重ねないと分娩までの結果が出ない方が多く、この後の治療に対するご家族の考え方を確認のうえ体外受精に移行しています。44歳以上の方の場合は当院の最高の出産年齢が46歳(45歳9ヶ月の採卵)ということもあり、当初より厳しめのお話をさせていただくこともあります。

(3)に関しては、転院をされるタイミングは患者さま目線で考えると藁をもすがる思いでいらっしゃるのも重々承知ですが、治療の転換期でもありますので、すぐに治療にうつるわけではなく一度立ち止まってデータを整理し話をするようにしています。全員が子供を授かる治療でないので、「ここまで治療してきたから辞めれない」「クリニックが悪かったのでは」などのバイアスを除き冷静にお話しする機会が必要なのだと思います。ただし、できる限りできること、今までやっていないエビデンスがあることを探しポジティブにお話するように努めたいと思っています。注射の組み合わせや採卵を決定するタイミング、培養部門での卵子・精子の取り扱い、クリニックの治療方針によって、不妊クリニックによって差が出てくる部分だと考えています。

(4)は、一番回答が難しいところです。当院では出産に至った方の胚移植回数もモニタリングしておりますが、鴨川では17回目、幕張では10回目の移植での妊娠が最高回数です。妊娠した胚移植回数別でも成績は管理しておりますが、3回目以降の胚移植で妊娠される方は、ほとんど何か新しい介入を試みないと結果が出ていないことも確かです。そこに至るまでには私たちも苦悩しますが、何より患者様自身がとても辛い思いで治療継続を選択されていますので、丁寧に向き合いたいと思っています。
しかしながら、すべての患者さまが満足するような返答ができないこともあり、その中で、私たちは、あえて転院を勧めることもあります。患者さまが妊娠しないことに納得がいかない場合や、当院の現在の実力では妊娠に至らないと判断した場合です。限られた時間ですので、大切に納得のいく選択をしていただくのが一番だと思っています。
当院での体外受精治療継続の上で、妊娠が難しいと判断しているケースについては、2019年7月に日本産科婦人科学会からでた「年齢上昇に伴う妊娠率の低下は容易ではないため、45歳かつ/または5回の採卵程度での治療中止を検討する提案が妥当」というフレーズを参考にさせていただいています。当院で妊娠されていない患者さまには、「今までの治療経過に縛られすぎず、この後のご夫婦の生活の中で不妊治療とどうおつきあいされていこうと考えるかが大事です」とお伝えしています。
今後は当院の成績や治療の考え方は来院している方には随時開示しておりますが、ブログなどでも定期的に開示していく予定です。
来院されている患者さま全員が妊娠されて卒業されているわけではないので、成績を開示することが、どれほど患者さまのためになるんだろう?と思う部分もありますが、当院は、千葉市美浜区に開設して3年目、私がここでの治療に携わってまだ1年足らずですので、現在の私たちの立ち位置を知っていただくことも必要だと考えております。今後も患者の皆さまと真摯に向き合って参りたいと思いますので、ご理解いただければ幸いです。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。