卵巣刺激反応不良の患者さまに対してクロミッド®を付加したHMGアンタゴニスト法を実施すると臨床結果が改善しますか。(肯定派)(論文紹介)
別のブログで、卵巣刺激反応不良の患者にHMG量を増やしても、クロミッドを付加しても回収卵子数は変わらないよというR. Moffatらの論文を紹介しました。
私見の部分でも紹介しましたが、この論文と別にクロミッドを付加すると良い結果になるよという報告がありますのでこちらも報告させていただきます。
Olga Triantafyllidouら. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2020. DOI: 10.1016/j.ejogrb.2020.05.026.
≪論文紹介≫
2015年6月から2017年9月までの間に卵巣刺激反応不良と診断した12人の患者を対象とした前向きコホート研究です。全ての患者は、HMGアンタゴニスト法(hMG、300 IU/日、hMG群)を用いて治療を実施しました。同じ患者に次のサイクルでは、HMGアンタゴニスト法(hMG、300 IU/日、hMG群)に加えて3日目から7日目までクロミッド100mgを追加して治療を実施しました。
クロミッドを100mg添加することで、E2レベル、発育卵胞数、回収卵子数が統計学的に有意に増加し、移植可能胚数も増加しました。さらに、クロミッド付加群ではキャンセル率の有意な減少が観察されました。クロミッド付加群では、2人の臨床妊娠(2回の生児出産と3回の生化学的妊娠)を認めました。
結論:
卵巣刺激反応不良と診断され、過去に体外受精に失敗したことのある女性を対象に、クロミッド100 mg付加をHMGアンタゴニスト法(hMG、300 IU/日、hMG群)に追加することで、刺激の結果が改善される可能性があるが、本試験では臨床妊娠と出生数で統計的な差を認めませんでした。
≪私見≫
先日紹介したブログの条件設定とは「卵巣刺激反応不良」という部分だけ共通していますが、それ以外は完全に別個な試験だと理解しています。R. Moffatらは別の患者で実施していますが、この試験では同一患者で行っています。同一患者の方がバイアスが少ないように感じると思いますが、あくまで初回のHMGアンタゴニストで結果が出ていない症例に対して、クロミッドを付加したHMGアンタゴニストをするとどうするかという論調です。つまり悪くなるという前提はないんだと思います。また前周期に卵巣刺激を行っているわけなので、同じ患者でもHMGアンタゴニスト実施状況とクロミッドを付加したHMGアンタゴニスト実施状況は異なるはずです。初回のHMGアンタゴニストが回収卵が少なかったり、キャンセル率が高いのは刺激が合っていなかったのではないかと推測できます。
R. Moffatらの試験でもOlga Triantafyllidouらのクロミッドを付加したHMGアンタゴニスト法でも卵巣刺激期間が11日だったのに対し、Olga Triantafyllidouらの初回HMGアンタゴニスト法は卵巣刺激期間が7日間となります。刺激前にピルものんでいませんからドミナントがきまっていた可能性もあるのかもしれません。
この2本の論文を通じてHMGアンタゴニスト法で卵巣刺激反応不良ならクロミッドを付加した卵巣刺激を考えて良いかもと思うきっかけになりました。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。