卵巣刺激反応不良の患者さまに対してクロミッド®を付加したHMGアンタゴニスト法を実施すると臨床結果が改善しますか。(不変派)(論文紹介)

FSHとエストラジオールの両方が顆粒膜細胞の増殖と機能に対して刺激因子になります。FSH受容体は、卵丘-卵子複合体を含む卵胞全体に分布しています。卵丘-卵子複合体内での FSH 受容体が活性することは卵子の成熟に極めて重要です。基底膜側では、卵胞は血液循環がなく卵胞内 FSH 量は拡散に依存し血液血清FSH 濃度と関連します。顆粒膜細胞は卵胞液中に拡散した FSH を結合して増殖しE2を合成します。卵胞液中の高いE2レベルが血液循環中に拡散します。
これらのことからFSHを高い状態を作ると良いのでは?と思いがちですよね。
以前ブログでも紹介したクロミッド刺激に少しHMG製剤を加えると体外受精成績は変わる?(https://medical.kameda.com/ivf/blog/post_202.html)ではクロミッドメイン刺激にHMGをちょっと追加すると結果がよくなったという報告でしたが、今回の論文はHMGアンタゴニスト法にクロミッド少し追加すると結果がよくなるの?という報告です。
R. Moffatら.Hum Reprod. 2020. DOI:10.1093/humrep/deaa336

≪論文紹介≫

単施設無作為化二重盲検臨床試験です。2013年8月から2017年11月まで実施されました。ボローニャ基準を用いて、2288人中220人(9.6%)が卵巣刺激反応不良と判定され114人がHMGアンタゴニストプロトコールによる卵巣刺激を実施しました。4つの治療群に無作為に割り付けられ、刺激方法は事前にピル内服(16-22日)後、GnRH-アンタゴニストプロトコルに従って実施しました。
A) (n = 28)クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG450単位
B) (n = 29)クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG150単位
C) (n = 30)プラセボ 5日間併用 HMG450単位
D) (n = 27)プラセボ 5日間併用 HMG150単位
uHCG10000単位を用いて37時間後に採卵実施。
血清 FSH、LH、E2、プロゲステロン濃度は、卵巣刺激1 日目と 5 日目、排卵誘発日に測定しました。受精卵は胚盤胞まで培養し、同サイクルで移植しました。主要評価項目は、回収卵子数です。副次評価項目として卵巣刺激に対する反応、胚の発育、産科的転帰としました。

結果:

参加者の年齢の中央値は38.5歳であり、採卵を受けた患者は109人でした。
下記のボローニャ基準の二つを必ず満たしていました。
(i) 母体年齢が高い(40歳)またはその他の危険因子
遺伝的素因、重度の骨盤感染症既往、内膜症性嚢胞、卵巣手術の既往、化学療法の既往、月経周期が短い(26日以下)など
(ii)以前の卵巣刺激反応不良(従来の刺激プロトコールで3個以下の回収卵子数)
(iii)卵巣予備能の低値(AFC 7個以下またはAMH 1.1 ng/ml ( 7.85 pmol/l)以下)

回収卵子数は各群間で類似していました(±SD;95%信頼区間);A:2.85(±0.48;2.04-3.98)、B:4.32(±0.59;3.31-5.64)、C:3.33(±0.52;2.45-4.54)、D:3.22(±0.51;2.36-4.41)。しかし、B)クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG150単位は、A) クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG450単位による卵巣刺激に比べて胚盤胞の数が多いという結果になりました(±SD;95%信頼区間);A:0.83(±0.15;0.58-1.2)、B:1.77(±.21;=2-2.22);P= 0.006。
平均血清FSHレベルは、HMG150IU群で低くなりました。クロミッド添加群は平均血清FSHレベルに影響を与えませんでした。
E2レベルには群間で差はありませんでした。
子宮内膜厚はクロミッド添加群で低くなりました。
全体の出生率は12.3%、累積出生率は14.7%であった。

結論:

回収された卵子の数は、GN の開始用量(150 対 450 IU)にかかわらず、クロミッドの添加の有無(3 日目から 7 日目までの 100 mg 対プラセボ)によらず、ほぼ同程度でした。

≪私見≫

従来のプロトコールにクロミッドを追加しても今回の論文では結果がかわりませんでした。今回と検討と似た試験ではTriantafyllidou らは300 IUのHMGアンタゴニストプロトコールにクロミッドを追加すると、卵巣刺激中のエストラジオールレベルが上昇し、卵子回収数と移植可能胚数が改善したというポジティブな試験もあります。
またHMG量を増やすと回収卵がふえるが、出生率や妊娠継続率がふえないという結果もあります。
結果は様々なので、新しい知見に期待しつつ費用対効果とOHSS発症リスク、そして現在までの報告結果をふまえて患者様と共に卵巣刺激法を検討していくのがよいのかもしれません。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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