多胎妊娠率と単一胚移植率が世界的で異なる理由と今後の目標
「多胎妊娠率と単一胚移植率が世界的に異なるのはなぜか?」
Adamson GDら.,Fertil Steril. 2020DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.09.003.
とう論文が投稿されています。多胎妊娠率が増えるのは妊娠率の向上のために複数胚移植をすることに起因するとわかっています。この議論の中では単一胚移植を勧める上で、うえで、それぞれの国でのガイドライン等の規制や、治療への経済的・社会的な補助が必要であることにも触れられています。
二個胚移植は移植あたりの妊娠率という観点では費用対効果に優れているのですが、多胎が妊娠した場合の周産期合併症や胎児への障害の発生率等を加味すると決して生涯を通して経済的効果がよいというわけではありません。
世界の移植あたりの分娩率・多胎率を提示いたします。
非ドナー卵子での移植 | 分娩率(%) | 多胎率(%) | 移植あたりの単一 胚移植割合(%) |
平均移植胚数(個) |
---|---|---|---|---|
世界平均 | 21.4 | 11.1 | 51.6 | 1.59 |
地域 | ||||
アジア | 24 | 5 | 69.8 | 1.39 |
オーストラリア・ニュージーランド | 20.9 | 6.6 | 80 | 1.2 |
ヨーロッパ | 15.9 | 12.7 | 37.9 | 1.72 |
ラテンアメリカ | 23.6 | 17.8 | 14.8 | 2.18 |
中東 | 14.5 | 18.5 | 10.9 | 2.59 |
北アメリカ | 32.9 | 21.1 | 32.5 | 1.86 |
サブサハラアフリカ | 16.4 | 15.4 | 25 | 2.25 |
日本ではどうなのでしょうか。
国内の体外受精の臨床データは生殖医学の臨床実施に関する調査
(https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/)で詳細にまとめられています。
多胎率は体外受精の成績を向上させるために、実施されてきた複数胚移植に対する結果であり、日本でも1989年当初は多胎率14%前後で推移していました。
ただ、多胎の周産期合併症などを加味して、2008年、日本産科婦人科学会より『生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解』(生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する。治療を受ける夫婦に対しては、移植しない胚を後の治療周期で利用するために凍結保存する技術のあることを、必ず提示しなければならない。)
(http://www.jsog.or.jp/modules/statement/index.php?content_id=25)が発表されてから、国内での体外受精の多胎率は2008年に6.6%、それ以降も低水準を保ち、2018年は2.9%と初めて3%を下回りました。
世界の中で、『体外受精の多胎率10%を切ろう、10年以内には5%以下を目指そう』という議論がされている中で、これは、日本の誇るべき数値です。達成理由は学会による規制が大前提にありますが、その他にも⑴移植あたりの高い妊娠率(臨床妊娠率:新鮮胚初期胚 19.8%、新鮮胚胚盤胞期胚 29.5%、凍結胚初期胚 20.1%、凍結胚胚盤胞期胚39.3%:2017年国内データ)、⑵世界的にみると体外受精治療が助成金制度を含め低い価格で提供されていること も理由に考えられています。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。