不良胚盤胞と良好胚盤胞を一緒に戻すと出生率に足をひっぱることがある?(論文紹介)

二個胚移植をするかどうか。ここは、とても悩むところです。
例えば4つ胚盤胞を凍結できたとして、良い受精卵から戻しますから、1番手、2番手を移植して着床しない場合、この段階で着床不全の検査結果で何も異常がなかったら、次の移植をする時に、「1番手、2番手で妊娠しないのに3番手、4番手を戻して妊娠するか…。かといって、戻さずに次の採卵に進むのも心苦しい。それであれば、二個胚移植をするのはどうか?」患者様も、関わる医療者側もこのような感情を抱く機会が多くあると思います。その際に懸念するのが、二個戻すことにより、①本命の受精卵の足をひっぱらないか。②多胎のリスクがあがらないか。 です。
こちらを評価した論文がございましたのでご紹介させていただきます。

Micah J Hillら. Fertil Steril. 2020. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.03.027

≪論文紹介≫

胚は子宮内膜に着床の際にシグナルを送ることができ、胚の質が子宮内膜の受容性に悪影響を及ぼす可能性があることは十分に考えられます。二個移植を実施した場合、受精卵同士が移植成績に害をあたえることがないかどうか検討することを目的として、2013-2015年の体外受精施設のデータを元に後方視的に検討しました。まずは単一胚盤胞移植(良好胚盤胞:ガードナー分類でAA,AB)と二個胚移植(良好胚盤胞:AA,AB +ガードナー分類でBA,BB,BCの中等度の胚盤胞、質の低い胚盤胞(CC,CB)、早期胚盤胞、胚盤胞になる前の桑実期胚)で出産率と多胎妊娠率を比較検討しました。
4640周期の体外受精で解析されましたが、どの解析においても、パートナーに質の低い胚を移植したとしてもネガティブな影響を与えていませんでした。
一次解析では、パートナーに質の低い胚盤胞(CC,CB)を移植することで出生率が 10%、多胎児出生率が 15%増加しました。中等度の胚盤胞、質の低い胚盤胞、早期胚盤胞の追加は、多胎児出生率を22%~27%有意に増加させ、出生率は8%~12%増加しました。胚盤胞になる前の桑実期胚を追加しても出生数は増加しませんでしたが、12%の多胎児出生率の増加に至りました。
38歳未満の女性では、質の低い胚を追加した場合、出生率は7%増加しましたが、多胎児は18%増加しました。38歳以上の女性では、低品質の胚を追加すると、出生率は9%増加し、多胎数は15%増加しました。

≪私見≫

この論文では、以下のように書かれています。
①本命の受精卵の足をひっぱらないか。→過去の実験ではある研究では、発生を停止した胚は、ヒトの脱落膜細胞にIL-1b、IL-6、IL-10、IL-17、IL-18、エオタキシン、およびHB-EGFの分泌を減少にさせることが証明されています。このことからも質の悪い胚を同時に戻した場合のネガティブな影響を懸念していましたが、胚盤胞にまでなっている胚であれば、ネガティブなクロストークを発生させて妊娠率を低下させるという結果ということはなさそうです。
②多胎のリスクがあがらないか→著明にあげるというのが結果となっています。
最近の報告では胎盤になる部分のtrophectodermの状態が着床には影響することがわかっています。これは絨毛になる細胞の数が純粋に増えるからなのか、trophectodermからの胚外にでている着床に関連する因子の量が増えるからなのかは結論がでていません。二個胚移植をするとtrophectodermも二倍になるわけですから、どのような理由であれば着床率も改善をすることはしっくりきます。ただ、そこが着床不全の原因がtrophectodermに依存するのであれば着床する場合は二個同時につっつくでしょうから、妊娠の代償に多胎となり、結果として周産期合併症・予後に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。

患者様は、健康な赤ちゃんと妊娠・出産し育てることをイメージして当院にいらっしゃっているはずですので、現在行っている治療と実際の妊娠後の予後を、きちんと伝えていく必要があるんだと思っています。

日本の2018年の体外受精の多胎率は2.9%。当院でも双胎率は3.1%(一卵性:二卵性=1:2)で、着床不全の患者様に二個胚移植を行うことが全移植の5.8%あります。今後、着床前スクリーニング検査が普及し有効活用することにより、出生数を低下させないようにしながら少しでも二卵性双胎率をゼロに近づけたいと思っています。
当院で治療され体外受精される方には伝えるようにしていますが、体外受精の分娩報告を見直していくと、周産期合併症はやはり一定の割合でおきています。
亀田IVFクリニック幕張の体外受精分娩報告(開院-2020/10/3)
平均分娩週数      39.0週 平均体重            3022g
帝王切開率 36.0%        男女比 1 : 1
双胎率   3.06%(一卵性/二卵性 =0.3 : 0.7)
先天性異常率      4.0%
合併症率 22.2%(>40歳 : 30.6%)
  妊娠糖尿病>妊娠高血圧症候群>胎盤位置異常

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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