2018年日本産科婦人科学会ART登録施設の臨床実施成績

日本産科婦人科学会より全国のART登録施設の2018年の生殖医療の臨床実施成績がデータ公開されましたので、わかりやすく解説をしながらお示ししたいと思います。

2018年に高度生殖補助医療で出産された児の数は56,979人となり、15人に1人が高度生殖補助医療によって産まれてきたという計算になります。年々ARTによる出生児数は増加していますが、その中でも凍結融解胚移植の件数が顕著に大きな割合を占めています。
このグラフで混乱を生じてしまう部分が、「顕微授精」、「体外受精」という受精方法と、凍結融解胚移植という移植方法が一緒のグラフに表示されているところだと思います。
「顕微授精」、「体外受精」と受精方法は違えど、これらの受精手技で受精させて培養した後に“新鮮胚移植を行った”ということです。
要するに、「顕微授精」と「体外受精」を足したものが新鮮胚移植です。
上記2018年度の新鮮胚移植と凍結融解胚移植の比率を円グラフで表示してみると、以下のようになります。

86.7%の出生時が凍結融解胚移植で産まれてきたのに対し、新鮮胚移植で産まれてきた児はたった13.3%です。
2018年度の当院の出生児の割合も凍結融解胚移植が90.2%に対し、新鮮胚移植が9.8%という同じ傾向でした。
では何故わざわざ胚を凍結するのかということですが、「採卵を行って1週間も経たない期間では、胚移植という行為にまだ母体環境が整っていないから」ということが主な理由です。
実際に、同じく2018度の日本産科婦人科の臨床妊娠率の平均データを見てみると凍結融解胚移植が34.7%に対し、新鮮胚移植は21.1%で凍結融解胚移植の方が10%以上高い結果となっています。

これが凍結融解胚移植の割合が大幅に増加した理由です。
上記の臨床妊娠率は全年齢の平均ですが、妊娠率は年齢によって大きく異なります。
2017年のデータになりますが、日本全国平均の年齢別妊娠率は以下になります。

上のグラフは、新鮮胚移植と凍結胚移植だけでなく、更に初期胚と胚盤胞にも分けられ、4種類の移植法の成績を表示しています。
初期胚とは採卵後2~3日目の4~8細胞に分割した状況の胚で、胚盤胞とは採卵後5~6日目で赤ちゃんになる細胞と胎盤になる細胞が明確に分かれた状態の胚です。
初期胚の中には2~3日目の評価グレードが高くても胚盤胞まで育たない胚が存在します。
それ故、上記グラフの初期胚移植と胚盤胞移植を比較してもいずれの年齢においても胚盤胞移植の方が移植あたりの妊娠率が高くなっています。
また、上記凡例名の最後に「SET」と書かれていますが、Single Embryo Transferの略で、単一胚移植(1度に1個だけ胚を戻す)という意味です。
海外では妊娠率を上げるために1度に複数個の胚を戻すのが主流の国もありますが、双子や三つ子は母子ともにリスクがあるため、日本では可能な限り単一胚移植を推奨しています。

これらの内容をまとめると、

  • 凍結融解胚移植
  • 胚盤胞移植
  • 単一胚移植
が、胚移植あたりの妊娠率を上げるのに最も安全で最も効率の良い方法であると思われます。移植法と共に患者年齢を加味すれば上のグラフからおおよその期待値が予測できます。

2018年度の当院の移植法の割合は、

  • 凍結融解胚移植 (88.4%), 新鮮胚移植 (11.6%)
  • 胚盤胞移植 (74.2%), 初期胚移植 (25.8%)
  • 単一胚移植 (94.2%), 二個胚移植 (5.8%)
という結果でした。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張