レトロゾールのIVM(体外成熟)への応用(論文紹介)

レトロゾールはPCOSの一般不妊治療、排卵周期の凍結融解胚移植の卵胞刺激、卵巣機能不全のクロミッド®体外受精での胚発生不良患者、ホルモン受容体陽性の乳がん患者の卵巣刺激など私自身も治療のオプションの選択肢として汎用しておりますが、卵巣刺激時にクロミッド®を用いるかレトロゾールを用いるかは本当に結論がでない部分です。現在のところ卵巣機能不全患者にしてもPCOS患者にしても第一選択として不妊治療での適応が承認されているクロミッド®を主体とした治療、そして良い結果に終わらなかった場合にオフラベルであるレトロゾール使用を当院の基本治療方針としています。
ただ、唯一クロミッド®より手応えがあるのが小卵胞の成熟率の増加です。
卵巣刺激を行わない、もしくは極少量の卵巣刺激のみ投与した卵巣から,未成熟卵を採取し体外で成熟(in vitro maturation: IVM)させ,成熟した卵子を顕微授精または媒精により受精,発育した受精卵を子宮内に移植するのが未熟卵体外成熟-体外受精-胚移植法(IVM-IVF)です。通常、略してIVMと記載されることが多いですが、小卵胞の成熟度をあげるためのプライミング薬剤としてのレトロゾール使用法がまとまっていました。こちらは小卵胞の成熟度の増加と一致した作用機序だと考えられますので記載しておくことにします。

Bruce I Rose ら.J Assist Reprod Genet. 2020 DOI: 10.1007/s10815-020-01892-6.

≪論文紹介≫

体外成熟(IVM)を利用した体外受精では、受精前に小~中程度の胞状卵胞から卵子(通常13mm以下)を採取し、体外で成熟させます。通常はPCOSなどで卵巣刺激を行うとOHSSリスクが高い場合などに行うことが多いのですが、いかんせん回収卵子数が予想より少なかったり、体外培養の胚発生が悪かったりと世界的に一般的な普及までには至っていません。
IVMは、任意の補助薬を使用せずに行うことができますが、多くの場合、IVMでの妊娠成績を向上させるためにFSH注射の低用量使用やIVM採卵38時間前のhCG注射などのプライミングを行うことがあります。
プライミングの目的は、生児につながる卵子の割合を増やすことです。IVMでターゲットとなる初期の胞状卵胞はFSH受容体が発現しており、FSH投与で顆粒膜細胞が増殖し卵子の質が向上する可能性が期待されています。
Roseらは、レトロゾールをIVMによる「プライミング」の方法として使用して提案しています。月経周期3日目からレトロゾールを5日間投与し、続いて月経周期7日目からFSHを25~75 Uの用量で投与しています。プライミングのためのレトロゾールとFSHは、卵胞の顆粒膜細胞を増加させることを目的としています。
レトロゾールは、初期の卵胞内のアンドロゲンホルモンを増加させることにより①胞状卵胞数の増加②顆粒膜細胞数の増加③顆粒膜細胞のFSHに対する応答性の改善④卵胞萎縮の阻害に働くと考えられています。エストロゲンのネガティブフィードバックループを阻害して内因性FSHを増加させるレトロゾールの作用は十分に確立されています。これらの作用機序を考えるとレトロゾールのアンドロゲンを介した直接作用、FSH上昇を促す間接作用ともに小卵胞には理にかなった薬剤と考えられます。
ただ、こちらがPCOS患者によいのか、非PCOS患者にも効果的なのか、IVM採卵ではなく、一般的な卵巣刺激にも効果的なのかは未だわかっていません。

≪私見≫

PCOS患者に対するIVM-IVFは当院でも実施しております。もちろん、当院でも体外培養での妊娠例もありますが、通常の体外受精成績に比して妊娠率が安定していないのが実情です。医療は誰が行っても同じ成績が担保されるべきと考えておりますので、IVMより他の代替手段(マイルド卵巣刺激や事前の腹腔鏡卵巣多孔術など)を選択する機会が増えてきています。ただし、がん・生殖で期間が限られている場合や、血栓傾向があり卵巣刺激をおこなうリスクが高い場合など必ずIVMの有効利用が必要となる場面が今後もでてくると思いますので、今後もレトロゾールによる小卵胞の卵胞成熟・IVMでの小卵胞のプライミングは追跡したいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張