不妊手術:FT(卵管鏡下卵管形成術)の妊娠率(当院の妊娠成績)

女性側の不妊原因としては、卵管因子が最も多く頻度は20-30%前後と報告されています。卵管因子の治療法は障害部位によっては腹腔鏡、卵管鏡が適応になりますが、体外受精治療が選択されることが多いです。
亀田総合病院・亀田IVFクリニック幕張でも卵管間質部、峡部閉塞病変に対して2014年3月よりFT(卵管鏡下卵管形成術)を日帰り手術で開始していますが、「妊娠までの期間」「治療後の妊娠率」をお伝えすると、ためらう患者様が数多くいらっしゃいます。

不妊治療において手術の評価は本当に難しく、手術が合併症なく完遂することも大事なのですが、「手術後どれくらい妊娠するのか」、「手術なしに妊娠する代替治療手段はないのか」、このあたりが患者様にとっては必要な情報となってきます。私たちはできる限り、クリニックごとの臨床成績を論文など公表されているデータをもとにお話するようにしています。
今回、亀田総合病院・亀田IVFクリニックで2019年12月までに行ったFT(卵管鏡下卵管形成術)の51症例の累積妊娠率を出しました。手術における合併症はありませんでした。
当院で子宮卵管造影を行った1593例のうち258例(16.2%)で異常を認めています。全例がFTの適応とは考えていませんが、私たちの説明不足もあるのか、FTを選択される方は比較的少ないのかもしれません。

FT後の治療内容 累積妊娠率(手術後2020年8月現在)
タイミング法 9.8% (5/51)
人工授精 15.7% (8/51)
一般治療(タイミング・人工授精) 25.5% (13/51)
ART 37.3% (19/51)
全体 62.7% (32/51)

表:当院のFT後の累積妊娠率(2020年8月現在)

FTの妊娠率に関しては福田らの4500例が一番数多い報告となっています。彼らは25.4%(1143/4500)が妊娠成立し、FT実施後の妊娠は、80%以上が4ヶ月以内、90%以上が8ヶ月以内としています。年齢別妊娠率は30歳未満 31.3%、30-34歳 30.3%、35-39歳 21.0%、40-44歳 8.7%と、年齢が高くても適応を満たせば妊娠に至っていることがわかります。FT後の子宮外妊娠発生率もHSG正常群と差がなかったことも報告されています。(「今すぐ知りたい!不妊治療Q &A 編集:久慈直昭 京野廣一:医学書院 2019)
アメリカ生殖医学会(ASRM)から2012年に卵管性不妊への対応として近位卵管閉塞以外に不妊原因をもたない若年女性に対して、卵管のカニュレーション手術が考慮されることは妥当であるとのCommittee Opinionがだされています。これらのデータや報告をみると、可能な限り自然に近い形で妊娠したいと考える患者様には、保険適応の手術であり侵襲度も高くないので、もう少し積極的にFTを行ってみてもいいのかもしれません。

≪追記≫

亀田総合病院・東京医科歯科大学で手術を行った患者様に関しては、手術所見や画像の見直し、妊娠結果まで定期的にミーティングを行っており、全てのデータを把握しているので安心して成績をお示しできるのですが(こちらの成績も追って公表させていただきます)、手術までお待ち時頂く期間が長くなってしまっており、大変申し訳ございません。不妊治療を焦る気持ちもあると思いますので、適宜良い形でご提案できるように、近隣施設とも連携をとりながら進めていくよう努めたいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。