不育症における過剰妊孕性と低妊孕性の比較分析(J Reprod Immunol. 2023)

【はじめに】

不育症は2回以上の妊娠損失と定義され、抗リン脂質症候群、子宮形態異常、両親の染色体異常、甲状腺機能などが主たる原因として知られていますが、多くの症例で原因不明です。興味深いことに、不育症患者の中には3ヶ月以内に妊娠する「過剰妊孕性」を示す女性が一般集団の3%に対し32%と高い割合で存在する一方で、体外受精を必要とする低妊孕性の女性も存在します(Orlando, J., Coulam, C., 2014.)。しかし、これまで不育症の病態は流産回数のみで定義され、妊孕性の違いは考慮されていませんでした。今回、妊孕性の違いによる不育症の臨床的背景・疫学を比較した研究をご紹介いたします。

【ポイント】

過剰妊孕性と低妊孕性の不育症患者では、年齢の違いを除けば臨床的背景・疫学は類似していたが、年齢調整後の比較可能な陽性率を示し、更なる検討が必要である。

【引用文献】

Sayuri Kasano, et al. J Reprod Immunol. 2023 Sep:159:104129. doi: 10.1016/j.jri.2023.104129.

【論文内容】

2017年7月から2020年2月に国内産婦人科施設にて既往不育症女性828名を対象とした後方視的観察研究です。患者を妊娠までの期間(TTP)により3群に分類しました:過剰妊孕性群(TTP≤3ヶ月)、低妊孕性群(TTP≥12ヶ月でART実施)、正常妊孕性群(TTP 3-12ヶ月でART未実施)。全患者で子宮解剖学的異常、抗リン脂質抗体、甲状腺機能、血栓素因について評価しました。
結果:
828例中、過剰妊孕性群22%、低妊孕性群44%、正常妊孕性群34%でした。平均年齢は過剰妊孕性群33.9歳、低妊孕性群38.2歳、正常妊孕性群35.9歳で有意差を認めました(P<0.001)。抗CL β2GPI抗体陽性率は過剰妊孕性群で4.6%と、正常妊孕性群の0.8%より有意に高値でした(P=0.016)。古典的APA(aCL抗体IgG、IgM、LA、抗CL β2GPI抗体)の一つでも陽性であった率は過剰妊孕性群11.0%、低妊孕性群9.4%、正常妊孕性群6.0%でした。非古典的APAを含む全APA陽性率は過剰妊孕性群14.8%、低妊孕性群14.7%、正常妊孕性群9.5%で、過剰妊孕性群と正常妊孕性群間に有意差を認めました(P=0.044)。ANA陽性率は過剰妊孕性群7.2%で正常妊孕性群(12.9%)より有意に低値でした。甲状腺機能異常率は正常妊孕性群(9.1%)が過剰妊孕性群(4.8%)より有意に高値でした(P=0.042)が、年齢調整後は有意差を認めませんでした(P=0.067)。不育症危険因子が認められない症例数は過剰妊孕性群50.0%で低妊孕性群60.7%(P=0.018)および正常妊孕性群60.7%(P=0.023)より有意に低値でしたが、年齢調整後は有意差を認めませんでした。

【私見】

過剰妊孕性と低妊孕性という対照的な妊孕性を示すにも関わらず、年齢調整後の不育症危険因子の分布は類似していました。これは、異なる妊孕性メカニズムでも最終的には類似の不育症病態に収束することを示唆しています。
過剰妊孕性におけるRPLの病態として、子宮内膜脱落膜化障害による「生体センサー機能」の破綻が提唱されています。正常では質の悪い胚は着床が阻止されますが、この機能が障害されると異常胚も着床し、結果的に流産率が上昇するとされています。

この論文では、古典的APAに加えて以下の3項目を非古典的APAとして扱っています:
抗ホスファチジルエタノールアミン抗体IgG
  過剰妊孕性群:5.4%、低妊孕性群:4.2%、正常妊孕性群:2.4%
抗ホスファチジルエタノールアミン抗体IgM
  過剰妊孕性群:3.0%、低妊孕性群:1.8%、正常妊孕性群:1.5%
抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体
  過剰妊孕性群:4.1%、低妊孕性群:3.3%、正常妊孕性群:5.1%

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文責:川井清考(院長)

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