慢性高血圧女性におけるアスピリンによる妊娠高血圧症候群発症遅延効果(Am J Obstet Gynecol. 2025)
【はじめに】
慢性高血圧は妊娠における主要なリスク因子の一つであり、妊娠高血圧症候群をはじめとする多くの妊娠合併症の原因となります。妊娠16週以前に100mg以上のアスピリンを開始することで、早期妊娠高血圧症候群リスクが減少することが知られていますが、ASPRE試験の二次解析では慢性高血圧女性における早期妊娠高血圧症候群予防効果は明確ではありませんでした。今回、慢性高血圧女性におけるアスピリンの効果をより詳細に検討したASPRE試験の事後解析をご紹介いたします。
【ポイント】
慢性高血圧女性において、アスピリンは妊娠高血圧症候群発症そのものを予防するのではなく、発症時期を遅延させる効果があります。
【引用文献】
Emmanuel Bujold, et al. m J Obstet Gynecol. 2025 Apr 24:S0002-9378(25)00261-3. doi: 10.1016/j.ajog.2025.04.046.
【論文内容】
慢性高血圧の既往がある女性において、アスピリンが妊娠高血圧症候群発症時期に与える影響を評価することを目的とした、ASPRE試験の事後二次解析です。慢性高血圧の既往がある女性において、Kaplan-Meier解析を用いて妊娠週数に応じた妊娠高血圧症候群による分娩の累積リスクを決定しました。37週未満の分娩に限定した重み付きlog-rank検定(Gehan-Breslow-Wilcoxon検定)を用いて群間比較を行いました。この検定は早期分娩により大きな重みを与える特徴があります。連続変数は中央値と四分位範囲で報告されました。
結果:
ASPRE試験の参加者1,620名のうち110名(7.0%)に慢性高血圧の既往がありました。慢性高血圧のある参加者のうち、49名(45%)がアスピリン群に、61名(55%)がプラセボ群にランダムに割り当てられました。2群間で母体年齢、妊娠週数、民族、BMI、分娩歴、喫煙、平均動脈血圧、子宮動脈拍動指数、母体血清pregnancy-associated plasma protein-A(PAPP-A)、placental growth factor(PlGF)を組み合わせたアルゴリズムで早期妊娠高血圧症候群の推定リスクに有意差はありませんでした。Kaplan-Meier曲線は、アスピリン使用が早期妊娠高血圧症候群累積リスクをより遅い妊娠週数にシフトさせることを示唆していました(P=0.051)。36週で分娩した女性において、アスピリン群では4例の妊娠高血圧症候群が妊娠35.6週の中央値で分娩(IQR:35.2-36.0、全例が35週以降の分娩)したのに対し、プラセボ群では4例の妊娠高血圧症候群が妊娠30.5週の中央値で分娩(IQR:28.1-32.7、全例が35週未満の分娩)しました(P=0.03)。
【私見】
今回の研究は、慢性高血圧女性におけるアスピリンの効果が「予防」ではなく「遅延」であることを明確に示した重要な報告です。
ASPRE試験は「Combined Multimarker Screening and Randomized Patient Treatment with Aspirin for Evidence-Based Preeclampsia Prevention trial」の略称で早期妊娠高血圧症候群のハイリスク女性におけるアスピリンの予防効果を検証した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、ベイジアンリスクアルゴリズムを用いて選別された単胎妊娠において、妊娠11-14週から36週まで150mgのアスピリンを夜間投与することで、プラセボと比較して早期妊娠高血圧症候群発症率を62%減少することをNEJMに報告しています。
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文責:川井清考(院長)
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