低用量アスピリン療法開始時期が凍結融解胚移植妊娠予後に与える影響(J Reprod Immunol. 2025)
【はじめに】
血栓性素因は、着床前においても内膜血管系を障害し、胚着床を阻害する可能性があります。このため、血栓性素因は不育症だけでなく、反復着床不全にも影響する因子として注目されています。低用量アスピリンや低分子量ヘパリンを用いた抗凝固療法は、RPLの既往を有する女性の妊娠喪失予防に広く使用されています。
【ポイント】
凍結融解胚移植において、胚移植日またはそれ以前から低用量アスピリンを開始すると妊娠予後に悪影響を与える場合もありそうです。
【引用文献】
Keiji Kuroda, et al. J Reprod Immunol. 2025 Mar:168:104430. doi: 10.1016/j.jri.2025.104430.
【論文内容】
低用量アスピリン(LDA)が胚着床に与える効果がいまだ議論の余地があることから、凍結融解胚移植周期におけるLDA開始の適切なタイミングを調査することを目的とした横断的研究です。2020年から2023年にかけて血栓性素因スクリーニングを受けた885名の不妊女性を対象とし、40歳未満553名のスクリーニング後初回凍結融解胚盤胞移植周期をリクルートしました。LDAは2020-2021年にかけて79名の女性(day 0群)では胚移植日から開始し、2021-2023年にかけて215名の女性(day 5群)では胚移植5日後から開始しました。2020-2023年にLDA治療なしで凍結融解胚盤胞移植を受けた259名を対照群としました。
結果:
凍結融解胚移植周期後の臨床的妊娠率および生児出生率は、day 0群が他の2群と比較して有意に低い結果となりました(臨床的妊娠率:対照群57.5%、day 0群40.5%、day 5群61.4%、p = 0.005、生児出生率:対照群48.6%、day 0群34.2%、day 5群54.0%、p = 0.01)。多変量ロジスティック回帰分析では、day 0群の生児出生率は他の群と比較して低く(OR: 0.54、95%CI: 0.31-0.95)、一方でday 5群と対照群の間では生児獲得率に有意差は認められませんでした(OR: 1.13、95%CI: 0.70-1.80)。
【私見】
凍結融解胚移植におけるLDA開始時期を分析した研究です。着床前にLDAを開始することで凍結融解胚盤胞移植後の妊娠機会が減少することが示されました。ESHRE recurrent pregnancy loss 2022では血栓性素因のある不育症患者において妊娠前からの LDAを推奨していますが、妊娠前の指す時期が詳細にはなっていません。
ヒト子宮内膜では、脱落膜反応は一過性の炎症反応によって開始されます。LDAの使用はCOXを不可逆的に不活化し、プロスタグランジンとトロンボキサン合成を阻害するため、異常な炎症状態のない女性では脱落膜化と胚着床過程における重要な炎症作用を潜在的に抑制する可能性があるため、今回の研究が重要になってきます。
Dentali et al. (2012)の17研究におけるメタアナリシスでは、胚移植日またはそれ以前から開始されたLDA治療が新鮮胚移植サイクルで臨床妊娠率をわずかに増加させる(OR: 1.19、95%CI: 1.01-1.39)ものの、生児出生率は改善しない(OR: 1.08、95%CI: 0.90-1.29)と報告されています。
また、今回の研究でも血栓性素因(抗カルジオリピン抗体 IgM および IgG、抗β2GPI抗体 IgM および IgG、LAC、プロテインC活性、プロテインS活性、凝固第XII因子のどれか)が陽性の場合、day 0群で臨床成績が高くなっています(51.3% vs. 30%)。つまり、効くだろう一群もいるということです。
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文責:川井清考(院長)
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