非PCOS女性におけるインスリン抵抗性と生殖成績(Hum Reprod. 2025)

【はじめに】

インスリン抵抗性は不妊女性において、生殖補助医療を受ける女性の流産リスク因子とされています。これまでPCOS女性でのインスリン抵抗性と生殖医療成績の関係は研究されてきましたが、非PCOS不妊女性におけるインスリン抵抗性の役割についての研究は不足しています。今回、非PCOS女性におけるインスリン抵抗性と体外受精成績の関連、およびメトホルミン治療の効果を検討した報告をご紹介いたします。

【ポイント】

非PCOS女性におけるインスリン抵抗性は生殖医療成績の悪化と関連し、メトホルミン治療により成績が改善する可能性があります。

【引用文献】

Albert AB, et al. Hum Reprod. 2025. doi: 10.1093/humrep/deaf100.

【論文内容】

非PCOS不妊女性におけるインスリン抵抗性(IR)、メトホルミン治療、体外受精成績の関連を調査することを目的とした観察的、多施設、後ろ向きコホート研究です。2015年1月から2023年11月にスペイン不妊治療施設で収集された臨床データを用いて解析を行いました。
18歳から45歳の非PCOS不妊女性で、BMI ≤30 kg/m²、経口糖負荷試験(OGTT)結果が利用可能な1,033名です。OGTT結果に基づいてインスリン感受性あり女性(n=718)とインスリン抵抗性あり女性(n=315)に層別化されました。インスリン抵抗性あり女性のうち、198名は初回胚移植時にメトホルミン非曝露、117名は初回胚移植前にメトホルミン曝露されていました。
今回の論文ではOGTTにて以下の基準でインスリン抵抗性を定義しています。OGTT時の血清インスリン値が以下のいずれかで上昇(0分(空腹時):>10 mcU/ml、60分:>100 mcU/ml、120分:>60 mcU/ml)とし、上記全てが正常だった場合にインスリン感受性ありとしています。
結果:
非PCOS不妊女性におけるインスリン抵抗性ありの有病率は30.5%でした。インスリン感受性あり群と比較して、メトホルミン非曝露インスリン抵抗性あり女性は流産リスクが高く(26.3% vs 17.6%;aRR=1.439(1.078–1.921);P=0.013)、生産率が低くなりました(9.6% vs 24.5%;aRR=0.422(0.269–0.663);P<0.001)。一方、メトホルミン曝露インスリン抵抗性あり女性では、非曝露インスリン抵抗性女性に比べて臨床的妊娠率が高く(53.9% vs 35.9%;aRR=1.467(1.137–1.892)P=0.003)、流産リスクが低く(13.7% vs 26.3%;aRR=0.481(0.288–0.804)、P=0.005)、生産率が高い結果でした(40.2% vs 9.6%;aRR=4.069(2.445–6.774)、P<0.001)。

【私見】

PregMet1・PregMet1研究では、PCOS妊婦のメトホルミン vs プラセボでのRCTですが、①後期流産・早産リスクの減少、②妊娠糖尿病予防効果なし、③安全性の確認、④妊娠中体重増加の抑制が一貫したデータで示されています。
PregMet1(パイロット研究):
Vanky E, et al. Hum Reprod. 2004;19(8):1734-40.
PregMet1(本格研究):
Vanky E, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95(12):E448-55.
PregMet1・PregMet1統合解析:
Vanky E, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2012;91(12):1460-4.
PregMet2:
Løvvik TS, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2019;7(4):256-266.

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文責:川井清考(院長)

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