凍結融解胚移植における妊娠初期E2・P4値(Hum Reprod. 2025)
【はじめに】
妊娠初期の内膜調整の違いが、周産期転帰に影響を与えることがわかってきました。凍結融解胚移植における黄体の有無は妊娠高血圧症候群に影響を与えます。では、最近話題としてあがるのは内膜調整・妊娠初期のエストラジオール(E2)・プロゲステロン(P4)値です。内膜調整の違いにより、どのように妊娠初期E2・P4値が異なるか示した報告をご紹介いたします。
【ポイント】
HRT周期による凍結融解胚移植では、修正排卵周期やゴナドトロピン刺激周期と比較して、胚移植日のエストラジオールとプロゲステロン濃度が有意に高くなります。
【引用文献】
Nina Freiesleben Mørch, et al. Hum Reprod. 2025. doi: 10.1093/humrep/deaf083.
【論文内容】
修正排卵周期、HRT周期、ゴナドトロピン刺激周期による凍結融解胚移植後の妊娠初期において、HRT周期で治療された血清エストラジオール(E2)値とプロゲステロン(P4)値が高いかどうかを調査することを目的とした並行オープンラベル無作為化対照薬物試験です。2021年4月から2024年12月に実施され、80%の検出力を得るために各治療群で100周期のターゲットサンプルサイズが設定されました。305周期が含まれ、257周期がper-protocol解析に含まれました。排卵のある女性はHRT周期または修正排卵周期に、無排卵の女性はHRT周期またはゴナドトロピン刺激周期に無作為に割り当てられました。7つの連続した時点(月経初期、トリガー時、胚移植日、判定(4週2日)、胎嚢確認(6週0日)、胎児心拍確認(8週0日、9週6日))で血液サンプルが採取されました。HRT周期はE2製剤6-8mg/day、プロゲステロン腟剤1200mg/day、排卵周期はrhCG250ugトリガーで黄体補充なし、ゴナドトロピン刺激周期はrFSH50-75unit/dayで卵胞発育を誘導しrhCG250ugトリガーで黄体補充なし、となっています。
結果:
排卵のある女性において、胚移植日にHRT周期は修正排卵周期と比較してE2値(0.86 nmol/l vs 0.54 nmol/l、aP < 0.001)とP4値(68.5 nmol/l vs 40.3 nmol/l、aP < 0.001)が有意に高く、妊娠8週0日においてもP4値は高い値を示しました(87.5 nmol/l vs 61.2 nmol/l、aP = 0.02)。無排卵女性においても、HRT周期をゴナドトロピン刺激周期と比較した際に同様の傾向を認め、胚移植日のE2値が高い値を示しました(0.96 nmol/l vs 0.54 nmol/l、aP < 0.01)。妊娠率、生児出生率、流産率、キャンセル率に差は認められませんでした。HRT周期で治療された排卵のある女性では、修正排卵周期と比較して推定治療差292グラムの有意に大きな児が得られました(P < 0.01)。さらに、修正排卵周期と比較してHRT周期で産後出血のリスクが高いことが認められました(22/40(55%)vs 10/40(25%)、P = 0.01)。
【私見】
この論文fig4が面白く、妊娠継続群・流産群で妊娠日E2、P4に差があるのはhCGによる賦活化が影響しているのではないの?と思いますが、実はトリガー日のE2にも差を認めており、黄体機能不全が一部流産と関連しているのではないかと考察しています。これはかなり面白い着眼点だと思っています。
新鮮胚移植での極端に高いエストラジオールは、子宮内膜の形態学的変化、胚と内膜の発育同期性の破綻を引き起こし、胎児成長制限、低出生体重、早産に働くとされています。
HRT周期凍結融解胚移植での軽度エストラジオール上昇は、胎盤機能変化やIGF系へ影響し、
胎児成長促進、LGA児となります。
「内膜調整時にエストラジオールが高いと、こうなります」と一律に説明できないのが難しい点です。
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文責:川井清考(院長)
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