凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)
【はじめに】
凍結融解胚移植周期においてホルモン補充周期(HRT)は、スケジュールの立てやすさから広く使用されています。黄体の非存在下では、外因性エストラジオール(E2)とプロゲステロン(P)が必須ですが、最適な投与方法についてコンセンサスは得られていません。経皮エストロゲン製剤を用いたHRT周期凍結融解胚移植における移植当日の血清E2値と生殖予後の関係について検討した論文をご紹介いたします。
【ポイント】
移植当日E2値≥313 pg/mlは初期流産率増加と関連しますが、生児出生率には有意な影響を与えませんでした。
【引用文献】
Maignien C, et al. Hum Reprod. 2025;40(5):876-884. doi: 10.1093/humrep/deaf037.
【論文内容】
経皮エストロゲンを用いたHRT周期において、凍結胚盤胞移植当日の血清E2値が妊娠予後に影響するかを検討したレトロスペクティブコホート研究です。2019年1月から2022年12月に、大学病院でHRT周期凍結胚盤胞移植を受けた2364名の患者を解析しました。患者は研究期間中に1回のみ組み入れられました。対象は経皮エストロゲンとプロゲステロン腟剤によるHRT周期で単一自己胚盤胞移植を受けた患者です。血清E2値は凍結胚盤胞移植当日朝に測定しました。主要評価項目は生児出生率とし、副次評価項目は臨床妊娠率、早期流産率、新生児予後(出生体重、分娩週数)としました。患者はE2値に基づいて3群に分類されました:<25パーセンタイル(<122 pg/ml)、25-75パーセンタイル(122-312 pg/ml)、>75パーセンタイル(≥313 pg/ml)。単変量および多変量ロジスティック回帰モデルを用いて解析しました。
結果:
2364名の患者のうち、590名が<122 pg/ml群、1184名が122-312 pg/ml群、590名が≥313 pg/ml群でした。全体の血清E2値の中央値(四分位範囲)は195.3 pg/ml(122.1-312.8)でした。各E2値群の生児出生率は33.7%、31.6%、31.0%でした。粗オッズ比および調整オッズ比では、<122 pg/ml群と≥313 pg/ml群の生児出生率は122-312 pg/ml基準群と比較して差を認めませんでした(aOR 0.9、95% CI 0.72-1.14および0.9、95% CI 0.69-1.09)。各群初期流産率は25.5%、24.6%、30.3%でした。粗解析では群間差を認めませんでしたが、多変量解析では≥313 pg/ml群は基準群と比較して早期流産リスクが有意に高いことが示されました(aOR 1.5、95% CI 1.06-2.18)。臨床妊娠率や新生児予後には有意差を認めませんでした。
【私見】
凍結胚移植のエストラジオールに触れられた論文は複数あり、E2値の生殖予後に与える予後について結論がでていません。投与経路の違い、患者集団の違い、測定時期、他薬剤との組み合わせなど複数調整因子があるため、質が高い研究がでてこないと結論はでなさそうな印象を受けます。
①同様の結果
Vyas N, et al. Fertil Steril 2023;120:1220-1226.
正常核型単一胚盤胞のHRT周期凍結胚移植において、高いピークE2値(>500 pg/ml)が基準群(300-500 pg/ml)と比較して低い生児出生率
②同様の結果
Zhou R, et al. BJOG 2021;128:2092-2100.
胚盤胞のHRT周期凍結胚移植においてで、プロゲステロン投与前の血清E2値≥400 pg/mlが生児出生率低下および初期流産率増加
③E2値関係なし
Fritz R, et al. J Assist Reprod Genet 2017;34:1633-1638.
④E2値関係なし
Mackens S, et al. Front Endocrinol (Lausanne) 2020;11:255.
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文責:川井清考(院長)
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