男性不妊にはシルデナフィルとタダラフィルどちらがよい?(Fertil Steril. 2007)

【研究紹介】

Alterations in sperm motility after acute oral administration of sildenafil or tadalafil in young, infertile men

若年不妊男性におけるシルデナフィルまたはタダラフィルの経口投与直後の精子運動性の変化

Pomara G, ほか. Fertil Steril. 2007 Oct;88(4):860-5. doi: 10.1016/j.fertnstert.2006.12.019. PMID: 17544419.

2025年3月29日のブログでは、タダラフィルの有害事象報告の中に「精液検査所見の悪化」との関連が示唆された研究をご紹介しました。今回、その内容を裏付けるような知見が他にあるのかどうか調べてみたところ、関連する研究が見つかりました。やや古い文献ではありますが、今回はそちらをご紹介いたします。

【要旨】

目的:若年不妊患者におけるシルデナフィルおよびタダラフィルの急性効果を精液パラメーターを用いて評価することです。

デザイン: シルデナフィル(50mg)またはタダラフィル(20mg)の単回投与後の精液パラメーターを対象とした、前向き無作為化二重盲検クロスオーバー臨床試験です。

設定: 本研究は、アカデミックな病院、男性不妊センター、およびアンドロロジー研究室で行われました。

対象者:本研究には、18名の若年不妊男性が参加しました。

介入方法:無作為化された盲検下で、シルデナフィル(50mg)またはタダラフィル(20mg)を単回経口投与しました。各治療薬投与後1時間または2時間後に精液を採取しました。

主要評価項目:シルデナフィルおよびタダラフィル投与後の精液検査のパラメーターの変化を、基準値と比較して評価しました。

結果:シルデナフィル投与後、精子の前進運動率が有意に増加しました(中央値 37.0% vs. 28.5%)。対照的に、タダラフィル投与後は有意な低下が認められました(中央値 21.5% vs. 28.5%)。

結論: これらの予備的な結果から、シルデナフィルおよびタダラフィルの単回投与が若年不妊患者の精子運動性に急性の影響を及ぼすことが示唆されます。シルデナフィルは促進効果を、タダラフィルは阻害効果を示しました。

表.精液パラメータの基礎値およびシルデナフィルまたはタダラフィル投与後の精液パラメータ。

精液検査のパラメーター 基礎値 シルデナフィル タダラフィル
精液量 (mL) 2.9±0.4 (2.8) 2.4±0.4 (2.1) 2.7±0.5 (2.1)
pH 7.9±0.2 (8.0) 7.9±0.2 (7.8) 7.9±0.1 (7.8)
精子数(100万/mL) 29.1±6.0 (17.4) 31.5±5.9 (22.1) 28.6±5.9 (17.3)
Rapid progressive motility (%) 11.9±2.1 (10.5) 18.8±2.7 (18.5)
P=0.0006 vs 基礎値
8.6±1.8 (6.0)
P=0.006 vs 基礎値
Total progressive motility (%)a 28.6±3.4 (28.5) 35.5±3.3 (37.0)
P=0.009 vs 基礎値
24.2±3.2 (21.5)
P=0.015 vs 基礎値
精子正常形態率 (%) 23.7±6.1 (11.0) 24.8±3.8 (16.0) 23.6±4.2 (15.5)

注:データはすべて平均値±標準偏差(中央値)。a Class a (rapid) + b (slow) progressive motility。

【筆者の意見】

本研究は、PDE5阻害薬をオンデマンドで男性不妊症の患者に使用する際、とくにタダラフィルが精子運動率を低下させる可能性を示唆しています。健常者においては問題がないことが多いと考えられますが、男性不妊症患者では慎重な使用が望まれるかもしれません。
治療中は定期的に精液検査を実施し、運動率の変化をモニタリングすることが重要です。ただし、今回の報告で見られた運動率の低下は平均で4.4%、中央値で7%とされており、臨床的には大きな問題にならない可能性もあります(これは私見です)。
なお、勃起障害が主因の男性不妊症では、精液所見に大きな異常が見られないことが多く、そのような場合にはタダラフィル使用が有用と考えられます。一方で、精液所見に異常がある場合には、その原因に対する治療を併用しつつ、精液の状態を確認しながら治療を進めることが重要です。
次回のブログで、タダラフィルが精液所見を改善する可能性を示した研究を紹介したいと思います。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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