HRT周期凍結融解胚移植における妊娠初期子宮動脈拍動指数は低値(Am J Obstet Gynecol. 2025)
【はじめに】
妊娠高血圧症候群(PE)は母体および周産期の健康にリスクをもたらす疾患で、欧州の一般集団では1%、米国では約4%の妊娠に影響を及ぼします。近年、超音波検査や血清バイオマーカーを含む妊娠初期スクリーニングとして広く採用されており、妊娠34週以前のPE発祥を高率に予測することが可能となりました。HRT周期凍結融解胚移植後の妊娠はPEリスク増加と関連するというエビデンスがありますが、内膜調整法の種類が妊娠初期の子宮動脈拍動指数やPEリスク評価に与える影響については十分に検討されていませんでした。こちらに関してビッグデータで差し示した報告をご紹介させていただきます。
【ポイント】
HRT周期凍結融解胚移植妊娠では妊娠初期の子宮動脈拍動指数が低下し、実際のPE高リスクの過小評価につながる可能性があります。
【引用文献】
Valeria Donno, et al. Am J Obstet Gynecol. 2025 May;232(5):464.e1-464.e9. doi: 10.1016/j.ajog.2024.10.033.
【論文内容】
HRT周期凍結融解胚移植における内膜調整が妊娠初期の子宮動脈拍動指数に与える影響を評価することを目的とした後ろ向き単施設研究です。2010年1月から2023年5月の間にバルセロナのDexeus大学病院で妊娠初期スクリーニングを受けた27,289例の単胎妊娠(自然妊娠または生殖補助医療による妊娠)を対象としました。対象妊娠は自然妊娠23,410例、卵巣刺激・人工授精391例、体外受精・新鮮胚移植888例、排卵周期凍結融解胚移植316例、HRT周期凍結融解胚移植2,284例に分類されました。年齢、体重、喫煙、卵子提供の交絡因子を調整した共分散分析を実施し、子宮動脈拍動指数値と妊娠成立方法との関連を評価しました。
結果:
HRT周期凍結融解胚移植妊娠では、年齢、体重、喫煙、卵子提供を調整した多変量回帰分析において、他のすべての妊娠成立方法と比較して妊娠初期の子宮動脈拍動指数が有意に低値を示しました。自然妊娠と比較して22.6%(95%信頼区間:20.6-24.5)、卵巣刺激・人工授精と比較して24.5%(95%信頼区間:20.7-28.1)、新鮮胚移植と比較して24.8%(95%信頼区間:22.9-27.6)、排卵周期凍結融解胚移植と比較して21.7%(95%信頼区間:17.6-25.5)の減少でした。予防的アスピリン投与開始リスク(>1/100)を計算した際、HRT周期凍結融解胚移植群では予防的アスピリンを開始したハイリスク(FMFモデル)患者数が有意に少なくなりました(7.8% vs 排卵周期16.0% P<.001 vs 新鮮胚移植11.0% P=.01 vs 卵巣刺激・人工授精10.5% P=.14 vs 自然妊娠9.3% P=.03)。驚くべきことに、HRT周期凍結融解胚移植群ではPEハイリスクと判定される患者が有意に少なかったにもかかわらず、実際のPE発症率の分析では、HRT周期群で5.3%(122/2,284)と自然妊娠1.4%(321/23,410)、卵巣刺激・人工授精1.3%(5/391)、排卵周期妊娠1.6%(5/316)と比較して3倍高く、新鮮胚移植妊娠2.3%(20/888)と比較して2倍以上高い発症率を示しました(P<.001)。
【私見】
HRT周期凍結融解胚移植における内膜調整法が妊娠初期の子宮動脈拍動指数に与える影響を初めて大規模に検討した重要な報告です。HRT周期で観察される子宮動脈拍動指数の低下について、妊娠10週まで投与される外因性エストロゲンによる高エストロゲン状態が関与している可能性を示唆しています。
PEハイリスクの場合は、子宮動脈拍動指数が高くなるはずなのに逆の動きをします。これにより、FMFモデルでの初期PEハイリスクが見逃されている可能性が高いと結論づけています。では、メカニズムが違いそうなのに、HRT周期凍結融解胚移植によるPE高頻度は予防的アスピリンがきくかどうか、これは今後の大きなkey questionかと思います。
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文責:川井清考(院長)
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