子宮内細菌叢異常を見つけて抗生剤・Lactobacillus腟剤(Sci Rep. 2025)
【はじめに】
慢性子宮内膜炎と子宮内細菌叢異常は反復着床不全の主な原因です。慢性子宮内膜炎は子宮鏡検査や子宮内膜CD138検査によって診断され、子宮内細菌叢異常は次世代シーケンシングを用いた子宮内細菌叢検査によって評価されます。子宮内細菌叢異常はLactobacillus属の減少によって特徴づけられます。どれを見つけて、どのように治療したら治療予後があがるのでしょう?こちらを調査した報告をご紹介いたします。
【ポイント】
慢性子宮内膜炎と子宮内細菌叢異常の診断に用いる3つの検査は異なる患者集団を検出し、子宮内細菌叢検査で診断された子宮内細菌叢異常は治療後の良好な妊娠予後と関連していました。
【引用文献】
Daiki Hiratsuka, et al. Sci Rep. 2025 Mar 10;15(1):8272. doi: 10.1038/s41598-025-92906-9.
【論文内容】
子宮鏡検査、子宮内膜CD138検査、子宮内細菌叢検査の相関性や、慢性子宮内膜炎と子宮内細菌叢異常に対する治療の妊娠予後への効果については調査したレトロスペクティブ研究です。
この研究では、3つの検査(子宮鏡検査、子宮内膜CD138検査、子宮内細菌叢検査)をすべて受けた反復着床不全患者73名のデータを分析しました。慢性子宮内膜炎と診断された患者には抗生物質が投与され、子宮内細菌叢異常と診断された患者には抗生物質と腟内Lactobacillusプロバイオティクスが投与されました。
結果:
子宮鏡検査とCD138検査によって診断された慢性子宮内膜炎の発生率はそれぞれ56.2%と49.3%であり、子宮内細菌叢異常の有病率は53.4%でした。これら3つの検査での陽性者間に相関は見られませんでした。子宮内細菌叢異常患者のうち88.9%が治療後に臨床妊娠を達成し、これは子宮内細菌叢異常非該当患者の妊娠率よりも有意に高い結果でした(p=0.021)。多変量解析では、子宮内細菌叢異常が臨床妊娠と関連していることが示されました(OR 6.29、p=0.031)。
【私見】
子宮鏡検査による慢性子宮内膜炎の所見、CD138陽性、および子宮内細菌叢検査異常に相関関係が観察されなかったことを示しています。そして、この論文の面白いところは、治療予後です。説明としては治療後一年の妊娠となっているので、トライされた回数はなんとも言えませんが、書いてあることは①子宮内細菌叢検査を行い補正が一番重要、②慢性子宮内膜炎に関しては抗生剤だけよりはラクトバチルス腟剤補充も、ということです。
子宮鏡検査または子宮内膜CD138検査で慢性子宮内膜炎と診断された患者に対する治療は、2週間のドキシサイクリン投与(初日200mg、その後は100mg/日)が行われ、子宮内細菌叢検査で子宮内細菌叢異常と診断された患者に対しては、2週間のドキシサイクリン投与に加えて、Lactobacillus腟剤による補充療法(胚移植の4週間前から胎嚢確認まで1日1回)が実施されました。
Table 3(治療後の臨床妊娠結果)
研究対象となった43名の患者のうち、30名(69.8%)が治療後に臨床妊娠を達成しました。検査別の妊娠率を見ると、子宮鏡検査で異常所見があった患者の70.0%(27名中19名)が妊娠し、異常所見がなかった患者では70.6%(16名中11名)が妊娠しており、両者に有意差はありませんでした(p=0.911)。
子宮内膜CD138検査が陽性だった患者の65.0%(20名中13名)が妊娠し、陰性だった患者では73.9%(23名中17名)が妊娠しており、こちらも有意差は認められませんでした(p=0.526)。
一方、子宮内微生物叢検査で子宮内細菌叢検査異常と診断された患者では88.9%(18名中16名)が妊娠し、子宮内細菌叢検査異常がなかった患者の56.0%(25名中14名)に比べて有意に高い妊娠率を示しました(p=0.021)。さらに、治療法別に見ると、抗生物質とLactobacillus膣錠剤の両方で治療を受けた患者は88.9%が妊娠し、抗生物質のみで治療を受けた患者の60.0%と比較して有意に高い妊娠率でした(p=0.045)。
Table 4(臨床妊娠に影響を与える因子の多変量解析)
臨床妊娠に影響を与える因子を特定するため、8つの因子について多変量ロジスティック回帰分析が行われました。その結果、子宮内微生物叢検査でのED陽性のみが臨床妊娠と有意に関連していることがわかりました(OR:6.29、p=0.031)。子宮鏡検査での異常所見(OR:1.090、p=0.919)、子宮内膜CD138検査陽性(OR:0.813、p=0.786)は、いずれも臨床妊娠との有意な関連を示しませんでした。
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文責:川井清考(院長)
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