子宮内細菌叢組成と不妊患者の生殖予後(Microbiome. 2022)
【はじめに】
不妊患者における子宮内細菌叢の組成と生殖アウトカムの関連性について、342名患者を対象とした多施設前向き研究をご紹介します。当院で子宮内細菌叢検査を始めるきっかけとなった論文その1です。
【ポイント】
子宮内細菌叢は胚移植前段階で生殖アウトカムを予測するバイオマーカーとして有用であり、診断と治療戦略の改善の機会を提供します。
【引用文献】
Inmaculada Moreno, et al. Microbiome. 2022 Jan 4;10(1):1. doi: 10.1186/s40168-021-01184-w.
【論文内容】
女性生殖器官の細菌叢組成と不妊患者における生殖予後の関連性があるかどうかを調査した多施設前向き観察研究です。感染症の症状のない342名の不妊患者コホートにおいて、胚移植前に子宮内腔液と子宮内膜生検サンプルを16S rRNA遺伝子シーケンシング(16S rRNA遺伝子の7つの超可変領域(V2-4-8およびV3-6, 7-9))を用いて解析しました。この技術により、培養可能および培養不可能な細菌を含む子宮内の細菌叢全体を包括的に評価することができました。
結果:
Atopobium、Bifidobacterium、Chryseobacterium、Gardnerella、Haemophilus、Klebsiella、Neisseria、Staphylococcus、Streptococcusで構成される異常な子宮内細菌叢プロファイルが不成功生殖予後(非妊娠、生化学的妊娠、臨床的流産)と関連していることが明らかになりました。対照的に、Lactobacillusは一貫して生児出産となった患者で豊富に存在していました。
【私見】
子宮液サンプルと子宮内膜生検サンプルのコミュニティの詳細は下記となります。
子宮液サンプルのコミュニティは以下の通りとなります。
第1コミュニティはLactobacillusが中心で、ClostridiumとStreptomycesといった共生菌とLactobacillusの間に正の相関関係があり、主に共生菌や有益な細菌で構成されています。
第2コミュニティはGardnerella, Bifidobacterium, Atopobium, Staphylococcus, Streptococcus, Chryseobacteriumが中心で、これらの病原菌はLactobacillusと負の相関関係にあり、内部の菌同士は互いに正の相関を示す傾向があります(複数の病原菌が一緒に存在しやすい)
2つのコミュニティは明確に分かれていますが、強い相互接続があります。
子宮内膜生検サンプルのコミュニティは以下の通りとなります。
第1コミュニティはLactobacillusが中心で、子宮液サンプルと異なり、他の細菌との正の相関は少ないです。
第2コミュニティはGardnerella, Atopobium, Streptococcusが中心で、Lactobacillusと負の相関関係にあり、菌同士は互いに正の相関を示す傾向があります。
第3コミュニティはCorynebacterium, Staphylococcusで、第1コミュニティや第2コミュニティとの相互作用は比較的少なく、独自の生態学的存在意義が考えられます。
第4コミュニティはEscherichia, Finegoldia, Anaerococcus中心で、腸内細菌が含まれていて、これが何を意味するかは判断が難しいところです。
孤立したノードは、KlebsiellaとBacillusとなります。
子宮液サンプルと子宮内膜生検サンプルの共通点はLactobacillus中心で、対する病原菌との拮抗バランスで生殖予後と関連しているところ。異なるところは子宮液の方が子宮内膜検体より単純であるところ、細菌間の相互作用が多いところ、共生菌の存在が明確なところです。
16S rRNAシーケンシング技術を用いた解析には、細菌種によるrRNA遺伝子コピー数の違いに起因する定量的バイアスがあることも重要な考慮点です。例えば、Bacillus(8-15コピー)やKlebsiella(8コピー)などは、Lactobacillus(多くの種で4-6コピー、特にL. inersは1-2コピー)よりも多くのコピー数を持ち、結果としてCLR変換や様々なノイズを除外したとしても16S rRNAシーケンシングでは異常菌がラクトバチルスより過大評価される可能性があります。
この報告は結果に対して治療を検討せず生殖予後を見ています。つまり、子宮内細菌叢が悪いと生殖予後が悪いよという報告で、治療をすると予後が改善する可能性を示すのはiwamiらの報告となります。
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文責:川井清考(院長)
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