人工授精における精子調整法の比較(Hum Reprod. 2025)

【はじめに】

人工授精(IUI)は、不妊治療において体外受精よりも行いやすいタイミング法からのステップアップ手段です。排卵日に精子を調整して子宮内に注入するシンプルな手技になりますが、精子調整法がどのような方法がよりよいかはわかっていません。精子調整は重要なステップであり、運動性が高く形態的に正常な精子を選別し、受精や受精能獲得に有害な要素を排除することを目的としています。スイムアップ法と密度勾配法が最も一般的な精子処理技術として使用されていますが、どちらが優れているかについては未だ明確な証拠がありませんでした。こちらを比較検討したランダム化比較試験をご紹介いたします。

【ポイント】

人工授精では、スイムアップ法と密度勾配法は統計的に有意な生児出生率の差をもたらさず、どちらの方法も使用可能です。

【引用文献】

Tuyen N D Duong, et al. Hum Reprod. 2025 Mar 25:deaf047. doi: 10.1093/humrep/deaf047.

【論文内容】

人工授精において、スイムアップ法と密度勾配法の精子調整効果を比較する目的でベトナムの2生殖医療施設で実施されたオープンラベル、二施設、ランダム化臨床試験です。
スイムアップ法と密度勾配法で5%の差を示すためには912組のカップルが必要でした(検出力0.80、両側アルファ5%、追跡不能およびクロスオーバー率10%)。ランダム化はコンピュータ生成のランダムリストを使用し、2、4、または6のブロックサイズで行われました。治療割り当てはウェブポータル経由で行われました。
対象者は18歳以上で、夫の精子濃度が5×10⁶/ml以上、前進運動率32%以上、総前進運動精子数が5×10⁶以上(WHO 2010基準)のカップルとしました。凍結精液を使用するカップルや、夫の精液が高粘稠度の場合は除外されました。人工授精当日、参加者は(1:1の比率で)スイムアップ法と密度勾配法のいずれかに無作為に割り当てられました。精子調整は射精後1時間以内に行われ、人工授精はhCG投与後36〜40時間に1回実施されました。主要評価項目は最初の人工授精後の生児出生としました。
結果:
2020年8月7日から2022年10月29日に、456組のカップルをスイムアップ法群に、456組を密度勾配法群にランダム化しました。最初の人工授精後の生児出生はスイムアップ法群で55組(12.1%)、密度勾配法群で71組(15.7%)でした(RR 0.77、95%CI 0.56〜1.07)。他の妊娠転帰や産科・周産期転帰についても、両群間に統計的に有意な差はありませんでした。

【私見】

今回の検討では、統計的有意差がないものの、スイムアップ法に比べて密度勾配法が3.6%の生児出生率の上昇をもたらし、臨床的に意味のある差である可能性があります。
事後解析では、密度勾配法はスイムアップ法と比較して有意に高い精子回収率をもたらしました。これはWHOのガイドラインとも一致しています。
では、なぜスイムアップ法が密度勾配法よりよいのでは?と考えられているのでしょうか。これは遠心分離回数が少なく精子DNAダメージがすくなくなると考えられている点、スイムアップは運動性の高い精子が自ら泳ぎ上がってくるという選別機構をつかっているので自然選別に近いと考えられている点からだと思います。
ただ、治療はあくまで自然に近い方がよいわけではなく、治療の中での安全性・成績・効率化などの観点から最適化されるべきです。そういう意味では、人工授精は現段階では密度勾配法精子調整にやや軍配があがるのでしょうか。

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文責:川井清考(院長)

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