不妊女性における慢性子宮内膜炎の分子微生物学的診断法(Am J Obstet Gynecol. 2018)
【はじめに】
慢性子宮内膜炎は細菌病原体による子宮内膜粘膜の持続的炎症で、主にEnterococcus faecalis、Enterobacteriaceae、Streptococcus種、Staphylococcus種、Gardnerella vaginalis、Mycoplasma種などが原因とされています。また性感染症に関連する病原体であるUreaplasma urealyticum、Chlamydia trachomatis、Neisseria gonorrhoeaeも原因となります。慢性子宮内膜炎は無症候性であることが多いですが、反復着床不全や習慣性流産の原因となっています。原因菌同定に対して、リアルタイムPCRが従来用いてきた診断法との相互関連を調べた論文をご紹介いたします。
【ポイント】
リアルタイムPCRを利用した分子微生物学的診断法は、培養困難な細菌を含む慢性子宮内膜炎病原体を迅速に同定でき、従来の3つの診断法を組み合わせた場合と76.92%の一致率を示しました。
【引用文献】
Inmaculada Moreno, et al. Am J Obstet Gynecol. 2018 Jun;218(6):602.e1-602.e16. doi: 10.1016/j.ajog.2018.02.012.
【論文内容】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に基づく慢性子宮内膜炎の分子診断ツールを開発し、3つの古典的方法(組織学、子宮鏡検査、微生物培養)と比較することを目的とした観察研究です。
慢性子宮内膜炎の評価を受けた患者113名から採取した子宮内膜検体を、組織学、子宮鏡検査、微生物培養のうち少なくとも1つまたは複数の従来の診断方法で評価し、9種類の慢性子宮内膜炎病原体(Chlamydia trachomatis、Enterococcus、Escherichia coli、Gardnerella vaginalis、Klebsiella pneumoniae、Mycoplasma hominis、Neisseria gonorrhoeae、Staphylococcus、Streptococcus)の存在をRT-PCRで盲検的に評価しました。分子解析と古典的診断技術の感度と特異度を、3つの古典的方法すべてで評価された65人の患者で比較しました。
結果:
RT-PCR法は、組織学的診断と30サンプル(14の両方陽性と16の両方陰性)で一致する結果を示し、一致率は46.2%でした。
RT-PCR法と子宮鏡診断の一致は38サンプル(37の両方陽性と1の両方陰性)で観察され、精度は58.5%でした。
RT-PCR法を微生物培養と比較すると、37サンプル(22の両方陽性と15の両方陰性)で一致が見られ、一致率は56.9%でした。汚染の可能性や培養不可能な細菌を考慮すると、精度は66.2%に上昇しました。
65名の患者のうち、組織学的+子宮鏡診断が一致したのは27名(41.5%)、組織学+子宮鏡検査+微生物培養の結果が一致したのはわずか13名(20%)でした。これらのケースでは、RT-PCR法は10サンプルで一致し、76.92%の診断精度を示しました。
組織学+子宮鏡検査+微生物培養の結果が一致した子宮内膜サンプルでは、RT-PCR法は75%の感度、100%の特異度、100%の陽性予測値、25%の陰性予測値、0%の偽陽性率、25%の偽陰性率を示しました。
【私見】
RT-PCR法の主な利点は3つあります。
・高感度でDNAを同定・定量化できるため、培養可能か否かにかかわらず慢性子宮内膜炎の病原体を検出できること。
・生きた細菌ではなく細菌DNAを定量化するため、冷凍または固定サンプルでも検出可能で、サンプルの収集と保存が容易であること。
・RT-PCRは迅速な検査で、結果が数日ではなく数時間で得られることです。
デメリットとして、死菌も検出してしまうことです。自然治癒・抗生剤投与で死滅した菌は分解されるまで数日かかるため、とらえた菌が生存していて活性を持ち、生殖医療に悪影響を及ぼす可能性があるかどうかは不明です。また、高感度であるがゆえ生殖医療に無関係の菌すら治療対象にしてしまうリスクです。
細菌叢の次世代シーケンサー(NGS)による網羅的解析(メタゲノム解析や16S rRNA遺伝子解析など)によって、疾患や生理的状態との関係性が次々と明らかになってきた今だからこそ、特定の菌種や遺伝子を高感度かつ定量的に測定できるリアルタイムPCRの意義が改めて注目されています。今後は同一検体での周期別再現性、リアルタイムPCRで検討する細菌パネル種類が注目される事項かと思っています。
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文責:川井清考(院長)
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