ドナー卵子生存率が臨床成績に与える影響(Fertil Steril. 2025)

【はじめに】

ガラス化法による卵子凍結保存は、凍結保護溶液(EG、DMSO、PGなど)を高濃度で使用し細胞内水分を置換します。その状態で、急速冷却によってガラス状態(液体が結晶化せずに固体状態になること)となり、氷晶のような規則的な結晶構造を形成しないため、細胞膜や細胞内小器官を物理的に損傷しにくいとされています。臨床研究段階はすぎ、確立された手法とされていますが、最近の大規模な後ろ向き研究では成績が低く報告されています。今回、ドナー卵子のガラス化/加温後の生存率が基準値(95-100%)を下回る場合、その後の生殖医療成績への影響を調査した研究をご紹介します。

【ポイント】

ドナー卵子の低生存率は、受精率や2PN胚からの胚盤胞到達率、累積出生率に中程度のマイナス影響を与えます。

【引用文献】

Miguel Gallardo, et al. Fertil Steril. 2025 Mar;123(3):448-456. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.09.041.

【論文内容】

この研究は、ガラス化/融解したドナー卵子の基準値以下(95%〜100%)の生存率が、胚発生含めた臨床成績に与える影響を評価することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
2018年から2022年にかけて実施された12690件のガラス化/融解ドナー卵子受容者周期を分析しました。周期は生存率によってグループ化されました:benchmark: 95%〜100%、competence: 85%〜95%、below competence: 70%〜85%、poor: 50%〜70%、very poor: <50%。主要評価項目は、2PNあたりの総利用可能胚盤胞率でした。副次評価項目は、受精率、最初の単一胚盤胞移植後の出生率、および累積出生率でした。
結果:
ICSI周期あたりの平均融解卵子数は11.4±3.2個で、平均生存率は89.1%でした。生存率の低いグループでは周期あたりの卵子を融解する数が多かったものの、ICSI利用可能な卵子総数は非生存卵子割合が低いため、below competence、poor、very poorグループで少なくなりました。総利用可能胚盤胞率は生存率の低いグループで低く(benchmark:48.9%、competence:47.0%、below competence:46.0%、poor:43.6%、very poor:43.6%)、受精率も同様でした(benchmark:76.8%、competence:76.6%、below competence:75.6%、poor:74.7%、very poor:75.5%)。
最初に移植された胚の出生率のaRRは、すべての低生存率グループでbenchmarkグループと同等でした(benchmark:40.9%、competence:aRR=0.986、95%CI:0.931–1.045、below competence:aRR=0.992、95%CI:0.929–1.059、poor:aRR=1.103、95%CI:1.009–1.207、very poor:aRR=1.169、95%CI:0.963–1.419)。累積出生率はbenchmarkグループと比較して低生存率グループで減少しました(benchmark:79.2%、competence:aRR=0.988、95%CI:0.961–1.015、below competence:aRR=0.911、95%CI:0.880–0.944、poor:aRR=0.802、95%CI:0.757–0.851、very poor:aRR=0.793、95%CI:0.693–0.907)。ICSI利用可能なMII卵子数を均等にしたサブ解析でも、低い累積出生率が維持されました(benchmark:69.5%、competence:aRR=0.909、95%CI:0.827–1.000、below competence:aRR=0.942、95%CI:0.848–1.046、poor:aRR=0.833、95%CI:0.7386–0.941、very poor:aRR=0.873、95%CI:0.695–1.097)。

【私見】

低生存率グループは2PNあたりの胚盤胞到達率が微妙に低下する以外、良質胚盤胞到達率、初回単一胚移植の出生率は差がなく、累積出生率が低下しました。「生存率が低いグループの胚質が全体的に悪い」というよりも、「生存率の低いグループでは、胚盤胞の数が少なくなるため、結果的に累積出生率が低下する」という解釈が妥当そうです。
やはり、累積出生率には影響をあたえる以上、安定した施設での卵子ガラス化/融解が好ましそうですね。

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文責:川井清考(院長)

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