凍結融解胚移植における子宮内膜調整方法の成績比較(Lancet. 2024)

【はじめに】

凍結融解胚移植の内膜調整に関しての生殖成績として、ホルモン補充周期において妊娠高血圧症候群が高くなる可能性以外は生殖成績には差がないというのが共通見解です。こちらはコクランレビュー2017でも示されていますが、限界としてエビデンスレベルが低く、バイアスが大きいとされています。自然排卵周期および修正排卵周期とホルモン補充周期による内膜調整を比較した2024年大規模RCTをご紹介いたします。

【ポイント】

排卵のある女性の凍結融解胚移植において、自然排卵周期、修正排卵周期、ホルモン補充周期による子宮内膜調整法の違いによる出生率には差を認めませんでした。

【引用文献】

Vu N A Ho, et al. Lancet. 2024 Jul 20;404(10449):266-275. doi: 10.1016/S0140-6736(24)00756-6.

【論文内容】

凍結融解胚移植において、自然排卵周期および修正排卵周期とホルモン補充周期による内膜調整を比較することを目的としました。
ベトナム生殖医療施設で18〜45歳の排卵のある女性を対象とした無作為化オープンラベル研究が実施されました。患者はコンピュータ生成の無作為リストとブロック無作為化を用いて、自然排卵周期、修正排卵周期、またはホルモン補充周期(各1:1:1)に割り当てられました。介入の性質上、試験は盲検化されていませんでした。自然排卵周期では、エストロゲン、プロゲステロン、またはhCGは使用しませんでした。修正排卵周期では、排卵誘発にhCGが使用されました。ホルモン補充周期では、経口エストラジオール製剤(月経2〜4日目から8mg/日)と腟内プロゲステロン(子宮内膜厚≧7mmになった時点から800mg/日)が使用されました。胚はガラス化保存され、超音波ガイド下で1〜2個の3日目胚または1個の5日目胚が移植されました。最初の凍結融解胚移植周期がキャンセルされた場合、次のサイクルはホルモン補充周期で行われました。主要評価項目は1回の凍結融解胚移植後の出生率としました。
結果:
2021年3月22日から2023年3月14日までに4,779名がスクリーニングされ、1,428名が無作為に割り当てられました(各群476名)。自然排卵周期群と修正排卵周期群では各99件の最初の凍結融解胚移植周期がキャンセルされたのに対し、ホルモン補充周期群ではキャンセルはありませんでした。1回の凍結融解胚移植後の出生率は、自然排卵周期群で476名中174名(37%)、修正排卵周期群で476名中159名(33%)、ホルモン補充周群で476名中162名(34%)でした(RR 1.07、95% CI 0.87〜1.33、自然排卵 vs. ホルモン補充、および0.98、0.79〜1.22、修正排卵 vs. ホルモン補充)。母体および新生児の転帰には群間で差はありませんでした。

【私見】

この論文では、主要な結果はITT解析に基づいて報告されていますが、per-protocol解析の結果も示されています。
具体的には:
自然排卵周期:127/377(27%)
修正排卵周期:117/377(25%)
ホルモン補充周期:162/476(34%)
自然排卵周期とホルモン補充周期の比較では相対リスク0.78(95%CI 0.62-0.99)、修正排卵周期とホルモン補充周期の比較では相対リスク0.72(95%CI 0.57-0.91)となっています。
per-protocol解析ではホルモン補充周期の方が自然排卵周期や修正排卵周期よりも出生率が高いという結果になっています。この違いは、ITT解析では最初のサイクルがキャンセルとなって2回目のホルモン補充周期での出生に至った症例(自然排卵周期で47名、修正排卵周期で42名)が元の割付群の成績に含まれているためです。
なかなか解釈が難しい結果だなーと感じています。

現在、今回の研究と同様の、オランダ主体のNatPro研究(Natural vs Programmed Cycles for Frozen Embryo Transfer)、中国主体のCOMPETE研究(Comparison of Endometrial Preparation Protocols for Frozen Embryo Transfer)が動いており、これらの結果が楽しみです。
国内からもRCTが出せるような体制づくりをいますぐには無理かもしれませんが次世代の生殖医療を発信するために整備をしていく必要があると日々感じています。

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文責:川井清考(院長)

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