父親の肥満と子供の尿路性器奇形が関連(Andrology. 2025)

【研究の紹介】

Preconceptional paternal obesity may increase the risk of congenital urogenital anomalies in offspring: A case-control study

妊娠前の父親の肥満は、子供の泌尿生殖器の先天異常のリスクを増加させる可能性がある: 症例対照研究

Achkar ME, 他。Andrology. 2025 Jan;13(1):45-54. doi: 10.1111/andr.13673. PMID: 38837622.

妊活において、父親の健康が母体や子どもの健康に影響を与えることが明らかになりつつあります。これまで当ブログでもいくつかの関連テーマを取り上げてきました。
母体の肥満は、先天異常のリスク要因として広く知られていますが、一方で父親の肥満が先天異常のリスクにどのような影響を及ぼすのかについては、十分に解明されていません。特に、生殖年齢の男性における肥満の有病率が高いことを踏まえ、父親の肥満と子どもの先天異常のうち泌尿生殖器異常との関連が検討されました。本記事では、その研究結果についてご紹介します。

【研究の要旨】

目的:
泌尿生殖器の先天異常は、出生10,000人あたり4~60人に影響を及ぼします。本研究は、父親の肥満と子どもの泌尿生殖器の先天異常のリスクとの関連を明らかにすることを目的としています。

方法:
本研究は、症例対照研究として実施されました。ノートルダム・デ・セクール大学病院のデータベースから選ばれた179名の新生児(症例群91名、対照群88名)を対象としました。症例群は、腎臓、尿管、膀胱、尿道に、少なくとも1つの先天性の泌尿生殖器異常を有する新生児と定義しました。一方、対照群は先天異常のない新生児としました。
母体の肥満、妊娠中の感染症、慢性疾患、早産、発育遅延、生殖補助医療による妊娠、薬物乱用、ダウン症候群、その他の奇形を持つ新生児を除外しました。データ収集は、電話インタビュー、医療記録、およびアンケートを用いて行いました。
本研究における曝露要因は、妊娠前の父親のBody Mass Index(BMI)とし、自己申告による身長と体重を基に算出しました。米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインに基づき、BMI(kg/m²)が18.5以上25未満を正常体重、25以上を過体重、30以上35未満を肥満クラスI、35以上40未満を肥満クラスII、40以上を肥満クラスIIIと分類しました。
父親の肥満と子どもの泌尿生殖器異常との関連を定量化するために、ロジスティック回帰分析を用いました。

結果:
妊娠時の父親のBMI中央値(最小値-最大値)は、症例群と対照群の間で有意な差が認められました(症例群: 27.7 (43-20.1)、対照群: 24.8 (40.7-19.6); p < 0.0001)。
ロジスティック回帰分析の結果、正常体重の父親と比較して、過体重の父親は子どもの先天異常のリスクが高いことが確認されました(オッズ比 (OR) = 4.44、95% 信頼区間 (CI) = 2.1-9.1)。
同様に、妊娠時に肥満クラスIに分類された父親は、正常体重の父親と比較して、子どもが泌尿生殖器の異常を持つ確率が約8倍高いことが示されました(OR = 8.62、95% CI = 2.91-25.52)。
さらに、妊娠時に肥満クラスIIに分類された父親は、正常体重の父親と比較して、子どもが泌尿生殖器異常を持つ確率が5.75倍高いことが示されました(OR = 5.75、95% CI = 0.96-34.44)。

考察および結論:
本研究では、妊娠前の父親のBMIが高いほど、子どもの泌尿生殖器異常のリスクが増加することを明らかにしました。これらの結果は、子どもの泌尿生殖器の先天異常のリスクを低減するために、父親の肥満対策の重要性を示唆しています。

表1. 調査対象集団における泌尿生殖器疾患の割合

例数 (%)
対照(尿路生殖器先天異常なし) 88/179 (49.2)
症例(尿路生殖器先天異常あり) 91/179 (50.8)
鼠径ヘルニア 47/91 (51.6)
尿道下裂 25/91 (27.5)
両側精巣固定術(右・左) 6/91 (6.6)
精巣捻転 1/91 (1.1)
左尿管再移植術
腎盂形成術
4/91 (4.4)
停留精巣 3/91 (3.3)
右腎無発生(形成)
左腎無発生(形成)
2/91 (2.2)
異所性腎 1/91 (1.1)
水腎症 1/91 (1.1)

表2. 症例と対照の特徴および2群間の比較。

父親の特徴 症例 対照 p値
父親の年齢(歳) 35 (27–52) 35 (25–50) 0.288
妊娠5年前の父親のBMI (kg/m2) 27.50 (20.1–41) 24.55 (19.6–35.1) <0.0001
低体重 0/91 (0) 0/88 (0) <0.0001
標準体重 23/91 (25.3) 50/88 (56.8)
過体重 48/91 (52.7) 31/88 (35.2)
肥満クラスI 14/91 (15.4) 6/88 (6.8)
肥満クラスII 5/91 (5.5) 1/88 (1.1)
肥満クラスIII 1/91 (1.1) 0/88 (0)
妊娠時の父親のBMI (kg/m2) 27.68 (20.1–43) 24.85 (19.60–40.7) <0.0001
低体重 0/91 (0) 0/88 (0) <0.0001
標準体重 16/91 (17.6) 46/88 (52.3)
過体重 51/91 (56) 33/88 (37.5)
肥満クラスI 18/91 (19.8) 6/88 (6.8)
肥満クラスII 4/91 (4.4) 2/88 (2.3)
肥満クラスIII 2/91 (2.2) 1/88 (1.1)

【筆者の意見】

本研究では、子どもに先天異常がある父親のグループではBMIが有意に高く、過体重や肥満の割合が高いことが示されました。母親の影響を除外した上で解析が行われているため、この結果は母親が基本的に健康である場合の傾向を反映しています。データは非常に明確であり、父親の健康状態が子どもの発育に関与する可能性を強く示唆しています。
一方で、父親の肥満が子どもの泌尿生殖器の先天異常を引き起こす具体的なメカニズムについては、まだ明らかになっていません。しかし、最近の研究により、精子のエピゲノムが環境からのシグナルを次世代へ伝達する重要な役割を担っていることが分かってきました。本研究の解説の中でも、父親の肥満が子どもの健康にさまざまな悪影響を与える可能性が指摘されています。
父親の肥満は、精子のエピゲノムに影響を与え、DNAの化学的修飾、クロマチンの構成、非コードRNAの活性といった要因を変化させる可能性があります。これらのエピジェネティックな修飾が、結果として子どもの先天異常のリスクを高める一因となることが考えられます。
実際、当施設を受診される方の中にもBMIが高い方をよくお見かけします。体重管理は簡単なことではなく、一度減量してもリバウンドを防ぐのは容易ではありません。しかし、本研究の結果を受け、改めて体重管理の重要性を再認識しました。妊活中のご夫婦には、一緒に健康的な体重を目指していただきたいと思います。当施設では食事改善のサポートも行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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