甲状腺がん治療が生殖補助医療成績に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2021)
【はじめに】
妊孕性と甲状腺との関連性が複数の研究で示されています。その中で、甲状腺がんにおける手術をおこなった場合、不妊治療予後はどうなるのでしょうか。手術や放射性ヨウ素治療が不妊女性の生殖補助医療予後に与える影響を検討した報告をご紹介いたします。
【ポイント】
甲状腺全摘出術を受けた女性は部分切除術を受けた女性と比較して臨床妊娠率・生産率が低くなりました。
【引用論文】
Ning Huang, et al. J Assist Reprod Genet. 2021 Aug;38(8):2121-2128. doi: 10.1007/s10815-021-02204-2.
【論文内容】
甲状腺がんの手術法および放射性ヨウ素治療(RAIT)が生殖補助医療成績に与える影響と、年齢、TSH、甲状腺抗体陽性などの潜在的リスク因子が成績と関連しているかどうかを調査することを目的としたレトロスペクティブ研究です。
2010年から2019年に生殖補助医療を実施した137698名の不妊女性のうち、甲状腺がん治療を受けた76名の不妊女性を対象としました。臨床的妊娠率と出生率を評価しました。
結果:
部分的甲状腺切除術を受けた女性の臨床的妊娠率と出生率は、全摘出術を受けた女性と比較してそれぞれ7倍および6倍高いことがわかりました。年齢、TSHレベル、手術治療、甲状腺抗体陽性を調整した後でも、RAIT群と非RAIT群の間で臨床妊娠率と出生率に有意差は認められませんでした。多変量ロジスティック回帰分析では、年齢とTSHレベルは臨床妊娠率と出生率の低下とは関連していませんでした。甲状腺抗体陽性女性は、甲状腺抗体陰性女性と比較して、臨床妊娠率と出生率が有意に低いことが示されました。
【私見】
甲状腺全摘術では甲状腺ホルモンを補充しても成績が低下しています。
メカニズムは明確ではありませんが、視床下部-下垂体-甲状腺(H-P-T)軸の機能不全、副甲状腺機能低下・切除による低カルシウム血症、ビタミンD不足が関与しているのでしょうか。妊娠初期の補充で調整しきれない甲状腺ホルモンの生理的変動の影響も無視できないかもしれません。
放射性ヨウ素治療(RAIT)に関しては、RAIT後6ヶ月以上経過して生殖補助医療を受けた場合、臨床的妊娠率と出生率に影響がないことが示されたことは、RAIT後6ヶ月は妊活は延期すべきという2017年米国甲状腺学会のガイドラインを支持する結果かなと思います。
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文責:川井清考(院長)
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