胚生検における細胞数が妊娠予後に与える影響(Hum Reprod. 2025)

【はじめに】

着床前遺伝学的検査(PGT)は、過去30年間で生殖補助医療技術の重要な進歩として確立されてきました。PGTでのtrophectoderm生検数が増えれば増えるほど検査がうまくいかないことは減りますが、胚ダメージは大きくなるとされています。通常は5cellくらいを目標に生検をしますが、論文によると8cell前後が検査不成功を回避するためには無難だという報告もあります(Cimadomo D, et al. Hum Reprod. 2018)。今回の報告はPGT-Mでの生検数が臨床成績に影響するかどうか調査した報告をご紹介いたします。

【ポイント】

PGT-Mにおいて胚生検細胞数は、生検された胚の妊娠転帰に影響を与えません。しかし、成績に影響を与えるだろうtrendは否定できないため適正生検数を模索していく必要があります。

【引用文献】

Ling Ding, et al. Hum Reprod. 2025 Mar 1;40(3):434-441. doi: 10.1093/humrep/deaf001.

【論文内容】

PGT-Mに採取するtrophectoderm数が、その後の臨床転帰に影響を与えるかどうかを調査することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。北京大学第三病院で2014年5月から2024年8月に行われた605組のカップル850件の単一胚盤胞移植周期を対象としました。主要評価項目は生化学的妊娠率で、その他の指標として出生率、臨床的妊娠率、流産率も記録されました。850個の胚盤胞が含まれ、生検細胞数に基づいて4つのグループに分類されました:グループ1(1~5個の細胞)(n=234)、グループ2(6~10個の細胞)(n=328)、グループ3(11~15個の細胞)(n=192)およびグループ4(15個以上の細胞)(n=96)。
結果:
胚から生検された細胞数は、通常のPGT過程において生化学的妊娠率や出生率に有意な影響を与えませんでした(P>0.05)。1~5個の細胞を生検したグループでは234個の胚のうち129個(55.1%)、6~10個の細胞を生検したグループでは328個の胚のうち183個(55.8%)、11~15個の細胞を生検したグループでは192個の胚のうち92個(47.9%)、15個を超える細胞を生検したグループでは96個の胚のうち48個(50.0%)が妊娠に成功しました。出生率はそれぞれ42.7%、49.7%、43.2%、43.8%でした。

【私見】

過去の報告をみても生検数を気にしなくて良いよと謳っているものはほぼありません。
今回の研究は、若年であること(31歳前後)、生検数が多い胚盤胞はTE形態学的スコアが高かったこと、PGT-Mであったこと、単一医療施設での画一されたレベルでの実施であったことなどが差を生まなかった可能性があります。

Guzman L, et al. J Assist Reprod Genet 2019
生検数が5cellから10cellに増加すると臨床的妊娠成績が著しく低下する
Zhang S, et al. Fertil Steril 2016
TE形態学的スコアが低い胚盤胞の着床能が、生検数によって悪影響を受ける可能性がある
Scott RT Jr, et al. Fertil Steril. 2013
TE生検によるPGTによる侵襲で、出産率が5%低下する可能性がある

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文責:川井清考(院長)

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