AIでマイクロTESEでの精子採取予測(45本の論文のまとめ)
AI predictive models and advancements in microdissection testicular sperm extraction for non-obstructive azoospermia: a systematic scoping review
非閉塞性無精子症におけるAI予測モデルと顕微鏡下精巣内精子採取術の進歩:体系的なレビュー
我が国では、非閉塞性無精子症において、精子獲得のために顕微鏡下精巣内精子採取術が行われていて保険収載もされています。精子採取率は我が国の全国統計では34%程度との報告があります。術前に精子採取の予測がうまくできればとても有用です。これまで臨床的要因やホルモン要因など、いろいろな因子が検討されてきました。Y染色体微小欠失検査などの遺伝学的検査、事前に精巣の病理組織所見があれば有用な情報ですが、一貫した予測モデルはまだ確立されていません。こちらのブログでも東邦大学の小林教授のAI modelのご紹介をしています。今回は同様の研究を集めた総説のご紹介です。
【要旨】
研究課題:
顕微鏡下精巣内精子採取術(m-TESE)を受ける非閉塞性無精子症(NOA)患者において、人工知能(AI)モデルはどの程度正確に精子採取を予測できますか?
研究結果のまとめ:
AI予測モデルは、m-TESEを受けるNOA患者の精子採取成功を予測する上で大きな可能性があります。しかし、研究デザインの多様性、小規模なサンプルサイズ、検証研究の不足といった制約により、この分野の研究全体の一般化の可能性は限定的です。
研究デザイン、対象規模、期間:PRISMA-ScRガイドラインに従い、包括的な文献検索を実施しました。対象となるデータベースはPubMedおよびScopusで、検索期間は2013年から2024年5月15日までです。関連する英語文献を特定するため、Medical Subject Headings(MeSH)用語を使用しました。また、PubMedの「類似記事」および「引用文献」機能を活用し、関連する文献を網羅的に抽出しました。
対象者/材料、設定、方法:
このレビューでは、非閉塞性無精子症(NOA)患者を対象とし、臨床データ、ホルモン値、組織病理学的評価、遺伝的要因を取り入れたAIベースのモデルを用いてm-TESEの結果を予測した研究を含めました。ロジスティック回帰を含むさまざまな機械学習および深層学習技術が使用されていました。研究のバイアス評価にはPrediction Model Risk of Bias Assessment Tool(PROBAST)を用い、研究の質は個別予後・診断のための多変量予測モデルの透明性報告指針(TRIPOD)に基づいて評価し、報告基準の厳格性と方法論の精度を確保しました。
主な結果と偶然の影響:
スクリーニングした427本の論文のうち、45本が選定基準を満たしていました。これらの研究の多くは、ロジスティック回帰や機械学習を用いてm-TESEの結果を予測していました。AIベースのモデルは、臨床、ホルモン、生物学的要因を統合することで高い予測能力を示しました。
しかし、研究には小規模なサンプルサイズ、法的制約、一般化や検証の難しさといった限界がありました。一部の研究は大規模な多施設デザインを採用していましたが、多くはサンプルサイズの制約を受けていました。参加者の選択やアウトカム決定におけるバイアスのリスクは低いと評価された研究が大半を占め、予測因子の評価に関しても3分の2が低リスクとされました。ただし、解析手法にはばらつきが見られました。
限界と注意すべき点:
本レビューの限界として、対象研究の異質性、潜在的な出版バイアス、PubMedおよびScopusの2つのデータベースに依存している点が挙げられます。これにより、研究結果の網羅性が制限される可能性があります。さらに、本レビューではメタアナリシスを行っていないため、モデルの一貫性を定量的に評価することができません。しかしながら、本研究はNOAにおけるm-TESEのAI予測モデルに関する貴重な知見を提供しています。
研究成果のより広範な意義:
本レビューは、m-TESEを受けるNOA患者における精子採取成功率の予測に関するAI技術の可能性を示しています。臨床データ、ホルモン値、組織病理学的評価、遺伝的要因を統合することで、AIモデルは意思決定を支援し、患者の転帰を改善するとともに不要な手術を減らす可能性があります。しかし、生殖医療におけるAI予測の精度と信頼性をさらに向上させるためには、より大規模なサンプルを用いた研究や前向き検証試験の実施が必要です。こうした継続的な研究開発は、AIモデルの臨床適用を強化し、より広範な医療現場での導入を促進する上で不可欠です。
【筆者の意見】
非閉塞性無精子症に対する顕微鏡下精巣内精子採取術における精子採取予測のためのAIモデルに関する研究をまとめたところ、対象となった研究が45本もありました(小林教授の研究も含まれていました)。これは、この分野での研究が非常に盛んに行われていることを示していると思います。しかし、それぞれのモデルが各医療機関で実際に活用できるかどうかの判断は難しいでしょう。なぜなら、精子採取率には地域差があり、術者の技術や症例の背景など、さまざまな要因が影響を及ぼすと考えられるからです。
従来の統計学的手法では、臨床的要因による予測は困難でした。しかし、臨床データ、ホルモン値、組織病理学的評価、遺伝的要因などを統合し、AIを活用することで予測が可能になりつつあるのは素晴らしい進歩です。今後のさらなる発展に期待します。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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