睡眠の質と卵巣予備能との関連性(Fertil Steril. 2025)

【はじめに】

睡眠は、健康に対して強く影響すると言われています。 睡眠は免疫系、代謝系、ホルモン系、心血管系など体の多くのシステムに影響を与え、疫学研究では睡眠の質の低下は糖尿病、がん、死亡率の上昇などの疾患リスクを高めるとされてきます。生殖分野に関しても影響が考えられていて、視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)の調節障害、ホルモン(TSH、LH、FSH、テストステロン、AMH、プロラクチンなど)変化、免疫系の異常などです。睡眠の質と卵巣予備能について調査した報告をご紹介いたします。

【ポイント】

睡眠の質が悪いことは、生殖年齢女性における卵巣予備能の低下と関連しています。

【引用論文】

Yaoxiang Lin, et al. Fertil Steril. 2025 Mar;123(3):520-528. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.09.018.

【論文内容】

生殖年齢女性における睡眠の質と卵巣予備能との関連性を評価することを目的とした横断研究です。2023年2月から2024年1月までに登録された20~40歳の女性1,070名を対象としました。対象者に生殖および生活様式に関連する基礎情報を収集するためのアンケートを実施しました。睡眠の質はピッツバーグ睡眠質指数(PSQI)を用いて測定されました。卵巣予備能の評価として、AFC、AMHレベル、基礎性ホルモンレベルの測定を行いました。卵巣予備能低下はAFC<7またはAMH<1.1ng/mLまたはFSH≥10mIU/mLと定義されました。
結果:
1070名の女性の平均年齢は31.67±4.41歳でした。314名(29.35%)の参加者が睡眠の質が悪いグループ(PSQIスコア>5)に分類されました。両グループ間でFSH、LH、E2、テストステロン、AFC、AMHに差が観察されました。睡眠の質が悪いグループでは、AMHとAFCが有意に低く、FSHが高いことが示されました。交絡因子を調整した後の多変量回帰分析の結果、PSQIスコアの1単位増加は卵巣予備能低下のオッズ比増加と関連していました(AMH <1.1 ng/mL:aOR 1.28、95%CI 1.20-1.37;AFC <7:aOR 1.34、95% CI 1.25-1.43;FSH ≥10 mIU/mL:aOR 1.16、95% CI 1.08-1.25;AMH <1.1 ng/mLまたはAFC <7またはFSH ≥10 mIU/mL:aOR 1.29、95% CI 1.22-1.37)。PSQI ≤5グループと比較して、PSQI >5グループは卵巣予備能低下のオッズ比が増加していました(OR 3.80、95% CI 2.82-5.13;aOR 4.43、95% CI 3.22-6.14)。年齢/BMIによる層別化後、PSQI ≤5グループと比較して、PSQI >5グループのすべてのサブグループで卵巣予備能低下のオッズ比が増加していました。特に35歳未満とBMI ≤18.4 kg/m²のサブグループでその傾向が顕著でした。

【私見】

睡眠と不育症の関係は以前より指摘されていました。不妊にも関わっていておかしくないですよね。
睡眠の質はPittsburgh Sleep Quality Index(ピッツバーグ睡眠質指数)を用いられていました。
PSQIは睡眠の質を評価するための標準化された自己評価質問票です。
1. 主観的な睡眠の質、2. 入眠時間(寝つきの良さ)、3. 睡眠時間、4. 睡眠効率(ベッドで過ごす時間のうち、実際に眠っている時間の割合)、5. 睡眠障害(夜間の目覚めなど)、6. 睡眠薬の使用、7. 日中の機能障害(日中の眠気など)の7要素から構成されています。
これらの各要素は0〜3点でスコア化され、合計スコアは0〜21点の範囲になります。スコアが高いほど睡眠の質が悪いことを示し、一般的に5点を超えると「睡眠の質が悪い」と判断されます。本研究でも、PSQI>5のグループを「睡眠の質が悪い」グループとして分類していました。

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文責:川井清考(院長)

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