オキシトシン受容体拮抗薬は着床不全症例の凍結胚移植に有効?(Hum Reprod. 2025)
【はじめに】
以前より発育した胚を移植してみたにも関わらず対峙・接着部分のロスが多いことが懸念されています。この理由として、子宮収縮が一因として考えられています。この観点から子宮収縮をとって胚移植をしたらよいのではないか?という考えがあります。
そこで話題にあがるのがオキシトシン受容体拮抗薬であるアトシバン(静脈注射)とノラシバン(経口薬)です。
今回は、アトシバン(静脈注射)による着床不全症例の凍結胚移植における有効性を調査した報告をご紹介いたします。
【ポイント】
1回の着床不全既往患者の凍結融解胚移植において、アトシバン投与は生児出産率を向上させませんでした。
【引用論文】
He Cai, et al. Hum Reprod. 2025 Feb 28:deaf035. doi: 10.1093/humrep/deaf035.
【論文内容】
オキシトシン受容体拮抗薬であるアトシバンを胚移植時に投与することで子宮収縮を抑制し、生児出生率を改善するかどうか調査することを目的とした無作為化二重盲検プラセボ対照単施設臨床試験です。
2019年7月から2023年6月まで行われ、2024年5月まで追跡調査が実施されました。参加者、治療医、胚培養士は割り当てグループを知らされませんでした。参加者は1:1の比率でランダムに分けられ、移植手技の30分前にアトシバン静脈内投与(37.5mg)(n=549)またはプラセボ(n=551)を受けました。
対象は、1回着床不全を経験し、単一凍結胚盤胞移植を予定していた1,100名でした。割り当てられた介入の前に経腟超音波で子宮収縮性が評価されました。主要評価項目は生児出生とし、異常子宮収縮のある参加者とない参加者において事前に指定されたサブグループ分析が実施されました。
結果:
ランダム化された1,100名(平均年齢31歳)のうち、プラセボ群の1名が臨床妊娠後に追跡不能となったことを除き、1,099名(99.9%)が主要評価項目について評価されました。生児出生はアトシバン群で272/549(49.5%)、プラセボ群で246/550(44.7%)でした(絶対差4.8%、95%CI -1.1〜10.7;RR 1.11、95%CI 0.98〜1.26;P=0.10)。子宮収縮性は720名(全コホートの65%)で評価されました。そのうち、異常な収縮を示した163名(23%)では、アトシバン群とプラセボ群の生児出生率はそれぞれ51.9%と39.3%でした(絶対差12.6%、95%CI -2.6〜27.8;RR 1.32、95%CI 0.94〜1.86;P=0.11)。
【私見】
アトシバンは全例の胚移植に使うことは有効ではなさそうですね。これはノラシバンも同様の結果でした(G Griesinger, et al. Hum Reprod. 2021.DOI: 10.1093/humrep/deaa369)。
興味深いのは、サブグループ分析で異常子宮収縮を示した患者群において、統計学的差には達しなかったものの、アトシバン群で12.6%高い生児出生率が観察されたことです。特に、最も高頻度(6-10回/分)の子宮収縮を示した患者では、アトシバン投与により生児出生率が大幅に改善しました(52.9% vs. 21.4%)。この結果は、アトシバンの効果が子宮収縮異常の重症度に依存する可能性を示唆しています。
子宮収縮測定は胚移植の約1時間前に経腟超音波検査によって子宮収縮性の評価が行われました。高頻度(>4波/分)の蠕動波、または子宮底から子宮頸部へ向かう逆方向の波(negative wave: fundus to cervix)(頻度にかかわらず)としました。論文中では、参加者の65%(720/1100)に対してこの評価が実施され、そのうち371名(52%)に蠕動波が観察されました。さらに、蠕動波が観察された患者のうち163名(23%)が上記の基準による「異常な子宮収縮」を示していました。なお、収縮波の頻度について、全体の統計分布では:20パーセンタイルは1波/分、40パーセンタイルは2波/分、60パーセンタイルは3〜4波/分、80パーセンタイルは5波/分と報告されています。
今回の研究では、子宮形態異常(子宮筋腫、中隔)、重度の子宮内膜症は除かれています。このような症例での検証も必要かなと思います。
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文責:川井清考(院長)
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