生殖補助医療出生児の性差による小児がんリスク (Hum Reprod. 2024)

【はじめに】

生殖補助医療では卵巣刺激、卵子採取、精子調整、胚培養、胚凍結など様々な処置が行われるため、児の長期的な健康への影響が懸念されています。特に小児がんリスクについては、これまでの研究で様々な結果が報告されており、明確な結論は得られていません。ノルウェーのデータベースによる性差による小児がんリスクを調査した報告をご紹介いたします。

【ポイント】

ART出生した男児、特にICSIや凍結胚移植で妊娠した場合に、特定の年齢で小児がんリスクが上昇する可能性が否定できません。100,000人年での4人の増加なので、数による過剰有意差の可能性も否定できません。

【引用文献】

Oakley LL, et al. Human Reproduction. 2024. doi: 10.1093/humrep/deae285

【論文内容】

ARTによる小児がんリスクに性差があるかを調査することを目的としました。ノルウェーで1984年から2022年に出生した全小児(2,255,025名)を対象とした、レジストリに基づくコホート研究です。このうち53,694名がART妊娠でした。2023年12月31日まで追跡調査を行いました。Cox回帰モデルを用いて、ART妊娠した児とART妊娠でない児との年齢および性別特異的がんリスクを推定しました。
結果:
全体で0.25%が18歳未満でがん診断を受けましたART妊娠した児の累積がん発症率は非ART児より高く(21.5 vs 17.5/100,000人年、P=0.04)、特にICSIや凍結胚で妊娠した男児で高値となりました。全年齢層、男女、すべてのがん種を組み合わせたところ、ARTによるがんリスク上昇との関連はほとんどありませんでした(aHR 1.13、95%CI 0.94-1.36)。しかし、5-9歳のART児で全体的ながんリスクが上昇し(aHR1.53、95%CI 1.06-2.20)、女児(aHR 1.28、95%CI 0.70-2.33)よりも男児(aHR 1.73、95%CI 1.09-2.74)の方がわずかに高くなりました。複合解析では、顕微授精後の全体的なリスク増加はみられなかったが、男児では高いリスクが認められ(aHR 1.69、95%CI 1.18-2.42)、女児では認められませんでした(aHR 0.65、95%CI 0.37-1.16)。凍結保存後の全体的なリスク増加はみられなかったが、複合リスク(aHR 1.42、95%CI 0.95-2.13)は、男児では高いリスクが認められ(aHR 1.79、95%CI 1.09-2.94)、、女児では認められませんでした(aHR 1.01、95%CI 0.50-2.03)。媒精や新鮮児移植では、男児でも女児でもリスク増加は認められませんでした。

【私見】

ART妊娠による全般的な小児がんリスク上昇がないという報告が大半です。
Raimondi et al. 2005、Sundh et al. 2014、Gilboa et al. 2019、Hargreave et al. 2019、Spaan et al. 2019、Spector et al. 2019
しかし特定のがん種で増えるという報告もあります。
肝腫瘍:Hargreave et al. 2013、Williams et al. 2013, 2018、Spector et al. 2019、Weng et al. 2022
神経芽細胞腫:Hargreave et al. 2013
網膜芽細胞腫:Hargreave et al. 2013、Lerner-Geva et al. 2017
白血病:Reigstad et al. 2016、Weng et al. 2022
そのほか、凍結手技によるリスク増加:Sargisian et al. 2022、顕微授精によるリスク増加:Spaan et al. 2019、が報告されています。
どの報告にしてもあったとしても微々たる変化となっています。小児がんは稀少疾患であり、絶対リスクは依然として低いことを患者さんに説明することが重要です。

#生殖補助医療
#小児がん
#性差
#男児
#亀田IVFクリニック幕張

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張