ドメイン1特異的anti-β2GPI抗体と抗ホスファチジルセリン・プロトロンビン抗体の不育症予後(Obstet Gynecol. 2025)

抗リン脂質抗体は「病原性自己抗体」に位置付けられます。多様性から抗リン脂質抗体検出の標準化が困難であることが大きな課題となっています。検出方法には、酵素結合免疫吸着症(ELISA)などの固相法によって検出される免疫学的手法と、凝固検査で検出される機能的手法があります。現時点では、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI交代、ループスアンチコアグラントが抗リン脂質抗体症候群の分類基準に含まれています。 ただ、他の検出法でも病態との関連が強いものがあるとされていて、今回の報告はドメイン1特異的anti-β2GPIとanti-PS/PTの不育症予後を調査した報告です。

【ポイント】

ドメイン1特異的anti-β2GPI抗体と抗ホスファチジルセリン・プロトロンビン抗体 IgGは、妊娠予後予測に有用な独立した指標となる可能性があります。

【引用文献】

Moyle KA, et al. Obstet Gynecol. 2025. doi: 10.1097/AOG.0000000000005729

【論文内容】

抗リン脂質抗体陽性妊婦において、ドメイン1特異的anti-β2GPI(aD1)抗体と抗ホスファチジルセリン・プロトロンビン(aPS-PT)抗体の妊娠予後を調査したものです。PROMISSE研究のコホートから、SLE合併59名および非合併106名の抗リン脂質抗体陽性患者、およびSLE単独患者100名を対象としました。妊娠18週未満の血清でaD1とaPS-PT IgG・IgMを測定し、34週未満の重症妊娠高血圧腎症・胎盤機能不全による早産、または妊娠12週以降の胎児死亡を主要評価項目としました。
結果:
265名中45名(17.0%)が妊娠合併症転帰を経験しました。ROC解析におけるAUCは、aD1が0.734(95%CI、0.664-0.805)、aPS-PT 抗体IgGが0.83(95%CI、0.751-0.899)、aPS-PT 抗体IgMが0.612(95%CI、0.520-0.703)でした。有害妊娠転帰と関連したマーカーは、aD1(P<.001)、抗カルジオリピンIgG(P<.001)、β2-グリコプロテインI IgG(P=.003)、aPS-PT 抗体IgG(P<.01)、aPS-PT 抗体IgM(P=.03)、およびループスアンチコアグラント(P<.001)でした。Backward selectionにより、ループスアンチコアグラント、aD1、aPS-PT 抗体 IgGが最終的な妊娠合併症転帰モデリングに特定されました:ループスアンチコアグラントのOR 7.0(95% CI、3.4-14.4 )、aD1 OR 12.1(95% CI、3.64-40.2)、aPS-PT 抗体IgG OR 11.4(95% CI、5.2-25.2)。ループスアンチコアグラントをモデルから除外した場合でも、aD1およびaPS-PT 抗体IgGは有意なままでした。aD1およびaPS-PT 抗体IgGは、いずれも妊娠合併症の予測において最も優れた結果を示しました。尤度比が0.1未満の場合(感度が非常に高いという状態)、aD1またはaPS-PT 抗体IgGは妊娠合併症の除外に有効であった。aD1とaPS-PT 抗体IgGは、ループスアンチコアグラント陽性と関連していました(両方が陽性の場合、OR 27.9(95% CI、12.1-64.0))。ループスアンチコアグラント、aD1、aPS-PT 抗体IgGが陽性の女性では、妊娠予後不良が最も高くなりました(47.6%)。

【私見】

固相法で測定可能なaD1とaPS-PT IgGが、ループスアンチコアグラント陽性と強い相関を示し、独立した予後予測因子となることが示されたことは、機能法のループスアンチコアグラントより安定した検査として予後予測因子になり得る重要な知見と考えられます。
それにしても、抗リン脂質抗体の検査法は日々勉強するようにしていますが、なかなか非標準検査は自費コストもかかり臨床測定は難しいなと感じています。

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文責:川井清考(院長)

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