食物アレルギーと妊娠しやすさに関する研究(Hum Reprod. 2024)
食物アレルギーは近年増加傾向にあり、2019年の報告では成人の9-11%が食物アレルギーを有しているとされています。アレルギー性疾患は増加傾向にあり、過去の報告では気管支喘息もアトピー性皮膚炎も不妊との関連は賛否が分かれているところです。
食物アレルギーと妊娠しやすさ(fecundability)との関連を調査した研究をご紹介いたします。
≪ポイント≫
食物アレルギーは、基本的に妊娠しやすさとは関連がなさそうです。
≪引用文献≫
Willis SK, et al. Hum Reprod. 2024. doi: 10.1093/humrep/deae277
≪論文内容≫
食物アレルギー既往と妊娠しやすさの関連を調査することを目的とした前向きコホート研究です。方法として、2018年から2022年の間に北米/カナダ在住の妊娠を希望する女性7,711名を対象としました。対象者は21歳から45歳で、研究参加時に避妊をしておらず不妊治療も受けていない女性を対象としたPregnancy Study Online (PRESTO)と呼ばれるインターネットベースの前向きコホート研究の一環として行われました。質問票では人口統計学的データ、ライフスタイル要因、既往歴に加えて、8つの主要アレルゲン(乳製品、卵、ピーナッツ、木の実類、魚、甲殻類、大豆、小麦)について聴取し、診断時期や最近のアレルギー反応の時期も調査されました。その後、2ヶ月ごとに追跡調査を行い、12ヶ月間または妊娠成立まで追跡を継続しました。主要評価項目は各月経周期における妊娠確率(Fecundability)とし、統計解析にはproportional probabilities regression modelsを用いて、年齢、BMI、生活習慣など多くの交絡因子で調整を行いました。80%以上という高い追跡率を達成し、また欠損データに対してはmultiple imputationを用いて適切に処理されました。ただし、食物アレルギーの診断が自己申告であることや、特定の食物の除去による栄養学的影響を十分に評価できていないことなど、いくつかの研究限界も存在します。
結果:
対象者の13%(1,028名)が食物アレルギーの診断歴を有しており、多かったのは乳製品アレルギー(35%)と甲殻類アレルギー(19%)でした。食物アレルギー既往と妊娠しやすさには関連は認められませんでした(FR = 0.93, 95% CI: 0.86-1.02)。ただし、特定のアレルギーでは異なる傾向が見られ、卵アレルギー(FR = 0.74, 95% CI: 0.51-1.07)や甲殻類アレルギー(FR = 0.90, 95% CI: 0.74-1.08)ではやや妊娠しにくい傾向が示されました。また、BMI≧25群(FR = 0.90, 95% CI: 0.80-1.01)や1990年以降出生群(FR = 0.91, 95% CI: 0.80-1.03)では、食物アレルギーと妊娠しにくさの関連がやや強く見られました。
≪私見≫
高体重女性での食物アレルギーと妊娠しにくさのメカニズムは、肥満によるインスリン抵抗性と免疫反応が増強することにより食物アレルギーに過剰に反応する、1990年生まれ女性での食物アレルギーと妊娠しにくさのメカニズムは、クリーンな環境で育ったため、小児期感染曝露減少による免疫寛容が低下し食物アレルギーに過剰に反応する、と仮説を立てています。
本当かどうかは不明ですが、やはり健康的な生活を行うことは妊娠しやすさに影響しそうですね。
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文責:川井清考(院長)
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