生殖機能温存で凍結保存された精子の追跡調査結果

≪研究の紹介≫

自己精子凍結保存の自然史
Natural history of autologous sperm cryostorage.

Sleiman S et al., Hum Reprod. 2024 Dec 1;39(12):2655-2662. doi: 10.1093/humrep/deae217. PMID: 39327236.

前回は、がん治療に関連する生殖医療において、凍結保存した精子を使用した生殖医療の系統的レビューとメタアナリシスに関する論文をご紹介しました。今回は、1つの医療機関で、凍結保存された精子がどのような経過をたどったのかを長期間にわたって調査した結果をご紹介します。

研究の要約
この研究では、精巣に影響を与える治療を受ける前に、自分の精子を凍結保存した場合、その後どのような経過をたどるのかについて検討しました。

研究結果のまとめ
多数の症例を分析し、以下の期間の中央値(平均的な時間)と、それに影響を与える要因を調べました:

  • 凍結した精子を使用するために移送するまでの期間
  • 男性が死亡するまでの期間
  • 精子を廃棄するまでの期間

これまでに知られていること
精巣毒性のある治療を受ける前に精子を凍結保存した症例について、大規模な追跡調査を行った研究はこれまで報告されていませんでした。

この研究の概要
この研究は、1つの施設で実施された観察研究です。精巣毒性のある治療を受ける前に精子を凍結保存した症例を45年間にわたって追跡し、その経過や影響を与える要因を分析しました。

対象と方法
この研究には、がんやその他の疾患で精巣毒性のある治療が必要な男性のうち、精子凍結保存を希望した3923例(平均年齢30歳)が登録されました。

疾患の内訳

  • セミノーマ:756例
  • 奇形腫:368例
  • ホジキン病:468例
  • 非ホジキンリンパ腫:451例
  • 白血病:416例
  • 肉腫:272例
  • その他のがん:253例
  • がん以外:338例
  • 骨髄腫:38例
  • 骨髄異形成症候群:32例
  • メラノーマ:53例
  • 大腸がん:180例
  • 脳腫瘍:134例
  • 前立腺がん:91例

研究結果

  • 精子を移送して使用するまでの平均期間
    371例(全体の9%)で約2.4年(四分位範囲:1.0~6.0年)でした。
  • 登録者が死亡するまでの平均期間
    553例(全体の14%)で約1.7年(四分位範囲:0.9~3.3年)でした。
  • 精子を廃棄するまでの平均期間
    1807例(全体の46%)で約7.7年(四分位範囲:1.7~11.1年)でした。

多変量解析の結果(表)
基礎疾患(がんの種類)、保存のための受診頻度、経過観察の頻度、経過観察時の精子の有無が、それぞれの期間に影響する重要な要因であることが分かりました。

追加の結果

  • 235例(全体の6%)は精液サンプルを採取しませんでした。
  • 239例(全体の6%)は、無精子症(152例、4%)やその他の理由(87例、2%)により、精子を凍結保存しませんでした。

この研究の限界と注意点
この研究では、精巣毒性のある治療以外の目的で精子を凍結保存した症例や、凍結保存された精子を実際に生殖医療(例:体外受精)に使用した結果については調査していません。

広く応用できる知見
今回の研究データは、不妊の可能性がある精巣毒性のある治療を受ける際に、金銭的や保険的な制約がない場合、どのように精子凍結保存プログラムを運用するべきかを示しています。

表.多変量解析結果(一部抜粋)

  精子移送までの期間 患者死亡までの期間 凍結精子廃棄までの期間
  ハザード比 95%
信頼区間
P ハザード比 95%
信頼区間
P ハザード比 95%
信頼区間
P
精子保存のための受診回数 0.88 0.78, 0.99 0.023 1.24 1.03, 1.50 0.045 1.12 1.06, 1.18 <0.001
フォローアップ
受診の回数
1.15 1.07, 1.23 <0.001 0.72 0.57, 0.90 <0.001 0.85 0.81, 0.89 <0.001
フォローアップ
受診時に精子有
0.28 0.21, 0.38 <0.001 0.30 0.18, 0.51 <0.001 3.33 2.64, 4.18 <0.001

 

≪筆者の意見≫

生殖機能を温存するための精子凍結保存について、長期間にわたる多数の症例をまとめた本研究は、非常に貴重な検討だと思います。精子の利用率は9%で、従来の報告と一致しています。一方で、治療後に精子が確認された場合は、凍結した精子を使用せず廃棄されることが多いという結果でした。この利用や廃棄の傾向は、疾患の重症度や治療内容が影響を与えていることを示していると考えられます。
また、この研究では無精子症が4%と示されており、決して少なくない割合であることが分かります。この場合の対処法として、Onco-TESE(がん患者の精巣から精子を採取する手術)をあらかじめできるようにしておくことの重要性を改めて感じました。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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