経腟超音波検査時の高浸透圧潤滑剤使用による腟内細菌叢への影響(Am J Obstet Gynecol. 2024)
経腟超音波検査は婦人科診療において重要な検査ですが、使用する潤滑剤の影響についてはあまり注目されていませんでした。特に高浸透圧の水性潤滑剤は、子宮頸部・腟組織や関連する微生物叢に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。Lactobacillus属は性感染症の予防や婦人科・産科領域の有害転帰の予防に重要な役割を果たしていますが、高浸透圧潤滑剤がこれらの有益な細菌に与える影響について、調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
閉経後および細菌性腟症既往がある患者では、経腟超音波検査時の高浸透圧潤滑剤の単回使用でもLactobacillus優位な腟内細菌叢が減少する可能性があります。
≪引用文献≫
Brown SE, et al. Am J Obstet Gynecol. 2024. doi: https://doi.org/10.1016/j.ajog.2024.12.016
≪論文内容≫
経腟超音波検査時の高浸透圧潤滑剤の単回使用が腟内細菌叢に与える影響を、10週間にわたって評価しました報告です。対象は104名で、82%が閉経前女性でした。経腟超音波検査直前、経腟超音波検査6~12時間後、経腟超音波検査約2~5日後、その後9週間は週2回の自己採取を継続し、10週目に最終診察を受けました。
検査前後の短期的な評価では、潤滑剤使用直後の細菌叢組成に即時的な変化は認められませんでした。しかし、10週間の長期的な評価では、細菌叢の安定性が低下し、特に閉経周辺期/閉経後の参加者(N=19、調整オッズ比:3.22、95%CI:1.16-8.98)および細菌性腟症の既往がある参加者(N=58、調整オッズ比:1.73、95%CI:1.10-2.72)では、Lactobacillus低優位な状態が持続する可能性が高くなることが示されました。
≪私見≫
高浸透圧潤滑剤は腟上皮のバリア機能を低下させ、細胞ストレスを増加させることが示されていました。本研究は実臨床での単回使用でも、特定の患者群で長期的な影響が出る可能性を示唆しており、臨床的に重要な知見といえます。
個人的には、高浸透圧潤滑剤の影響なのか、超音波実施の影響なのか不明だなーと感じていますが、変化が現れやすかった閉経周辺期/閉経後女性はエストロゲン低下により腟上皮のバリア機能が既に脆弱化しており、Lactobacillus優位な細菌叢の維持が通常時から難しい状態ですし、細菌性腟症既往女性も細菌叢安定性が低い傾向があり、より容易に細菌叢バランスが崩れやすいと考えられます。高浸透圧潤滑剤の使用は意識する必要がありそうです。
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文責:川井清考(院長)
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