HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも生児獲得(当院報告:BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

日本では約90%の体外受精出生児が凍結融解胚移植によるものとされています。凍結融解胚移植では、排卵周期とホルモン補充周期があり、後者では外因性エストロゲンとプロゲステロンで子宮内膜を調整します。一般的に妊娠維持のためにプロゲステロンが妊娠黄体から絨毛・胎盤での産生にシフト完了する妊娠8-10週頃まで継続されないと妊娠喪失につながることが多いと報告されています。今回、妊娠3週5日でホルモン補充を中止したにもかかわらず、生児を得られた症例を報告しています。

≪ポイント≫

HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも妊娠継続・生児獲得が可能な可能性が示唆されました。着床した場合は、hCGが非常に低い値であっても追加フォローする必要があります。

≪引用文献≫

Katsumata S, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2024;24:831. doi: 10.1186/s12884-024-07059-w

≪論文内容≫

凍結融解胚移植において、黄体補充は着床と妊娠維持に重要です。一般的に黄体補充はプロゲステロン産生が妊娠黄体から絨毛・胎盤での産生にシフト完了する妊娠8-10週頃まで黄体補充は継続されます。今回、ホルモン補充周期での凍結融解胚移植後、妊娠3週5日で妊娠判定によりhCG超低値のため黄体補充を中止したにもかかわらず、健常児を出産した症例を報告しています。
30歳の原発性不妊症女性に対して凍結融解胚移植を予定しました。子宮内膜調整のためホルモン補充療法を開始し、内膜厚8mmを確認後、4BB胚盤胞を移植しました。妊娠3週5日時点で血清hCGが8.3mIU/mLと低値であったため、ホルモン補充を中止しましたが、妊娠6週1日にhCGが9,359mIU/mLまで上昇し、胎嚢と心拍を確認したため、ホルモン補充を再開しました。最終的に妊娠40週6日に2,601gの健常女児を経腟分娩しました。

≪私見≫

本症例は着床後妊娠維持に早期絨毛からプロゲステロン産生が起こり、黄体補充しても妊娠継続する可能性が示唆されています。妊娠初期に血清hCGが超低値であっても妊娠継続の可能性があるため、黄体補充を中断してもフォローをおこなうことが必要と感がえられます。
過去の同様報告は以下となります。単一胚盤胞移植での報告で、血清HCG判定の報告は他になく、意義深いcase report報告となりました。
- 血清hCGによる妊娠判定

  1. Kapetanakis et al. (1990)
    -45歳、卵子提供による妊娠
    -3個の分割期胚を移植
    -妊娠4週で尿中hCG陰性
    -その後のHRT中止にもかかわらず、妊娠9週で胎児心拍確認
  2. Ben-Nun et al. (1990)
    -36歳、卵巣予備能低下
    -3個の分割期胚を移植
    -妊娠3週6日で尿中hCG陰性
    -その後異所性妊娠と判明(妊娠6週5日でhCG 3660mIU/mL)
  3. Tong et al. Case 1 (2011)
    -43歳、卵子提供による妊娠
    -2個の胚移植(胚のステージ不明)
    -妊娠4週3日で尿中hCG陰性
    -妊娠4週3日から8週3日までHRT中止
    -妊娠35週で2500gの男児を帝王切開で出産
  4. Tong et al. Case 2 (2011)
    -24歳、両側卵管閉塞/PCOS
    -3個の胚移植(胚のステージ不明)
    -妊娠4週5日で血清hCG 90.71 IU/L
    -移植前日から妊娠5週2日までE2中止
    -帝王切開で2800gの女児を出産

クリニックのアカデミアとしての存在意義は貴重な例外を再考し続けることだと思っています。それが臨床医学の発展につながると思っています。生成AIに過去の格言を調べてもらいました。今年も日々の中で見落としがちな小さな“例外”に目を向け続けたいと思います。
カール・ポパー (Karl Popper)
 "Science must begin with myths, and with the criticism of myths."
ブレーズ・パスカル (Blaise Pascal)
 "Contradiction is not a sign of falsity, nor the lack of contradiction a sign of truth."
フランシス・ベーコン (Francis Bacon)
 "If a man will begin with certainties, he shall end in doubts; but if he will be content to begin with doubts, he shall end in certainties."

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文責:川井清考(院長)

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