Sperm separation devicesの凍結精子への有効性(J Assist Reprod Genet. 2024)

ZyMōtを代表する精子分離デバイス(SSD : Sperm separation devices)は、精子の大きさや運動性といった精子の物理化学的特性の違いを利用して、受動的または能動的に最も良好な精子を分離する、精子調製に関する新しいアプローチです。この方法の利点は、より迅速かつ穏やかな精子分離と、生体内での自然な精子選択に似た過程を考えられていること、精子調整の際の高速遠心による潜在的な損傷を回避できることと考えられています。
凍結精子でも有効かどうかを検証したsibling oocyte studyをご紹介いたします。

≪ポイント≫

精子分離デバイスは凍結精子でも使用は可能であり、密度勾配遠心法と成績は同程度である

Eleftherios Gavriil, et al. J Assist Reprod Genet. 2024 Nov 30.  doi: 10.1007/s10815-024-03336-x. 

ZyMōt™ Multi 850 μl(SSD群)が凍結精液から運動精子を効果的に回収できるかどうかを評価し、受精率、分割率、胚盤胞形成率について、従来の密度勾配遠心法(DGC群)と比較することを目的とした前向き単一施設対照試験です。少なくとも8つのMII 卵子が獲得できた150組のカップルがこの研究に参加しました。
結果:
受精率および分割率については、SSD群とDGC群で差を認めませんでした。胚盤胞到達率(SSD群:74.03 ± 23.47% vs. DGC群:67.86 ± 23.92%; p = 0.016)、良好胚盤胞到達率(SSD群:66.38 ± 24.94% vs. DGC群:60.98 ± 24.40%; p = 0.035)は、SSD群で良好な結果と認めました。サブグループ解析では、この増加はWHO基準による精液所見正常群(n=118)では有意なままでしたが、WHO基準による精液所見異常群(n=32)では有意差は認められませんでした。

≪私見≫

精子分離デバイスが密度勾配遠心法に比べて万能というわけではありません。精子分離デバイスは精子の全量を使用できるわけではないこと、また、症例によって精子分離デバイス処理後の集まりが非常に悪い症例が一定数あることです。今回の凍結精子を用いた報告では150症例中33症例で大幅に処理後の運動精子が減少しました。WHO基準による精液所見別にみてみると、正常群 13/33、低運動率群 11/33、低濃度群 13/33、高形態異常群 17/33となっていました。顕微授精後の受精率や分割率には差がなく、胚盤胞到達率は統計的差がありませんでしたがSSD群のほうが増加しているような傾向がありました。

精子分離デバイスと密度勾配遠心法は受精率・良好胚発生について一定方向の結論におちついていません。精子分離デバイスが密度勾配遠心法に比べて必ず優れていることが立証されているわけではないので、最初から行う必要はなく症例を選んで提案していくことが好ましいと思います。不妊治療は保険診療になったとしても安い治療ではありません。費用対効果を考えて治療選択をしていくことが必要と考えています。

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文責:川井清考(院長)

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