原因不明患者のIVF・ICSI生殖予後(F S Rep. 2024)

過去に原因不明不妊の顕微授精と媒精成績を比較した研究は数多くなされています。
おおまかな結論は、予後は顕微授精では改善しない、改善するとしたら全未受精のみ回避しやすいという方向性です。
今回、SARTレジストリを用いた累積出生率を転機とした報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

原因不明不妊での初回体外受精周期の累積出生率は顕微授精・媒精で同等でした。

≪論文紹介≫

Aya Iwamoto, et al. F S Rep. 2024 Jun 19;5(3):263-271. doi: 10.1016/j.xfre.2024.06.003.

顕微授精・媒精の累積出生率と費用対効果を比較するための、SARTレジストリを用いたレトロスペクティブ研究です。2017年1月から2019年12月の間に初回ドナーを除いた採卵周期を受け、2021年12月までに新鮮および凍結融解胚移植をリンクさせた原因不明不妊症患者を対象としました。主要評価項目は累積出生率で、採卵周期とリンクしたすべての胚移植から1回以下の生児出生と定義した。副次評価項目には、卵子1個あたりの2PN率、流産率、2PNあたりの移植または凍結胚の有効率とした。PGT未実施、実施グループにわけて解析を行いました。結果は、年齢、BMI、回収卵子数、追跡期間、クリニックでの顕微授精率で調整しました。
結果:
原因不明不妊患者18,805名が対象となりました。PGT未実施周期(顕微授精 54.4% vs. 媒精 57.5%)とPGT実施周期(顕微授精 47.6% vs. 媒精 51.8%)で、累積出生率に差は認められませんでした。PGT未実施顕微授精周期では流産率が高くなりました(顕微授精 16.4% vs. 媒精14.4%)が、PGT実施周期では差は認めませんでした(顕微授精 13.9% vs. 媒精 13.2%)。
PGT未実施周期(59.7% vs. 60.9%)および PGT周期(63.3% vs. 65.8%)で、顕微授精群のほうが2PN率は低くなりました。2PNあたりの有効率はPGT未実施周期(49.4% vs. 49.6%)でもPGT実施周期(54.2% vs. 55.2%)でも差は認められませんでした。 全受精未受精は、媒精群216人(4%)と顕微授精群153人(1.1%)に発生しました。
媒精単独の場合と比較すると、SARTクリニックでは、2年間にPGT未実施ICSIで推定11,011,500ドル、PGT実施ICSIで推定9,010,500ドルが患者に請求される計算となりました。

≪私見≫

顕微授精・媒精の流産絨毛の結果ですが、異数性染色体の分布などは変化ないとされています。
 Ji Won Kim, et al. BMC Med Genet. 2010 Nov 3:11:153.
 Larysa Y Pylyp, et al. J Assist Reprod Genet. 2018 Feb;35(2):265-271.
原因不明不妊、精液所見正常不妊は顕微授精は全受精障害の2-4%のリスク減少以外、生殖予後に関して臨床的妊娠率、出生率、累積出生率の観点からメリットはなさそうです。

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文責:川井清考(院長)

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