男性不妊ではないIVF・ICSIの生殖予後(Lancet. 2021)
1992年に顕微授精(ICSI)の最初の4件の妊娠が報告されてから、男性因子がなくても顕微授精が多く行われるようになりました。
しかし、重篤な男性因子がない状態での顕微授精/媒精比較は着床/臨床妊娠の観点からは媒精が顕微授精より良好な結果となっています。
S Bhattacharya, et al. Lancet. 2001 Jun 30;357(9274):2075-9. doi: 10.1016/s0140-6736(00)05179-5.
今回、出生率を転機とした報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
男性因子がない症例では、初回胚移植での出生率は顕微授精・媒精で同等でした。
≪論文紹介≫
Vinh Q Dang, et al. Lancet. 2021 Apr 24;397(10284):1554-1563. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00535-3.
顕微授精が媒精と比較して高い生児出生率をもたらすかどうかを調査することを目的とした非盲検多施設ランダム化比較試験です。対象カップルはベトナム2施設で体外受精治療をうけた18歳以上、男性パートナーの精子数と運動率がWHO2010年基準で正常であること、体外受精既往2回以下、GnRHアンタゴニストプロトコルを実施すること、移植胚数が2個以下であることとしました。主要評価項目は、開始周期からの最初の胚移植後の出産としました。解析はintention-to-treatベースで行われました。
結果:
2018年3月16日から2019年8月12日に、1,064組カップル(媒精 532組、顕微授精 532組)に無作為に割り付けました。初回胚移植後の生児出産は、顕微授精群532組中184組(35%)、媒精群532組中166組(31%)でした(絶対差3.4%、95%CI -2.4~9.2、RR 1.11、95%CI 0.93~1.32、p=0.27)。顕微授精群では29組(5%)、媒精群では34組(6%)で全受精不全となりました(絶対差 -0.9%、-4.0~2.1、RR 0.85、95% CI 0.53~1.38;p=0.60)。
無作為割付後12ヵ月時点での生児出産に至る累積妊娠率は、顕微授精群では222例(42%)で、媒精群では217例(41%)で同等でした。
≪私見≫
媒精の方が良いとした序言で示したS Bhattacharyaらの報告では女性平均年齢 31歳前後 回収卵子数 11個前後、媒精受精率 58%、顕微授精受精率 65%でした。かたや、今回示したVinh Q Dangらの女性平均年齢 33歳前 回収卵子数 9個前後、媒精受精率 66.7%、顕微授精受精率 75%でした。これらの結果で媒精>顕微授精から媒精=顕微授精となったことを考えると、顕微授精受精率がもう一段階高くなると媒精<顕微授精となる可能性を秘めています。
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文責:川井清考(院長)
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