高アンドロゲン状態のないPCOSの胚発生(J Assist Reprod Genet. 2024)

PCOSは、日本産科婦人科学会の基準と別に、国際的なRotterdam基準があります。Rotterdam基準では、月経異常、多嚢胞性卵巣、高アンドロゲン状態を軸に4つのPhenotypeに分類されていて、それらによって特徴が異なると考えられています。
 Phenotype-A:月経異常 あり、多嚢胞性卵巣 あり、高アンドロゲン状態 あり
 Phenotype-B:月経異常 あり、多嚢胞性卵巣 なし、高アンドロゲン状態 あり
 Phenotype-C:月経異常 なし、多嚢胞性卵巣 あり、高アンドロゲン状態 あり
 Phenotype-D:月経異常 あり、多嚢胞性卵巣 あり、高アンドロゲン状態 なし

今回は、高アンドロゲン状態がないPhenotype-Dが卵巣刺激後の胚発生、正常核型胚率に特徴があるかどうか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

Phenotype-DのPCOS(高アンドロゲン状態がない)は卵巣刺激後の胚発生、正常核型胚率に大きな影響はなさそうです。

≪論文紹介≫

Alberto Vaiarelli, et al. J Assist Reprod Genet. 2024 Nov 4. doi: 10.1007/s10815-024-03299-z.

Phenotype-D型PCOS女性において、卵巣刺激後の胚発生、正常核型胚率を評価したマッチングコホート研究です。
2013年から2021年にかけて、58名の高アンドロゲン血症がないPCOS女性と、同時期に同じ治療を計画した原因不明不妊女性221名から選んだ58名の対照群をマッチングしました。マッチング変数は、年齢(≒36歳)、BMI(≒22)、採卵された卵子複合体(COC)(≒21~23)、精液所見としました。主要評価項目はeuploid blastocyst rate(EBR)としました。
結果:
COCあたりの成熟率と生検胚盤胞あたりの正常核型割合は同様でした。高アンドロゲン血症がないPCOS患者は、受精率が高く、胚盤胞率も高くなりました。結果は正常受精あたりのEBRが高くなり、移植に利用できる倍数体胚盤胞が多くなりましたが、交絡因子で調整したこれらの差は有意ではありませんでした。初回正常核型胚移植あたりの生児出生率は同等であり、他のすべての転帰も同等でした。

≪私見≫

高アンドロゲン状態を有するPCOS女性は、受精率の低下、胚盤胞形成障害、胚発育の変化、流産リスクの上昇など、体外受精において様々な不利な転帰があるとされています。メカニズムとして、全身性の炎症と酸化ストレスの増加、顆粒膜細胞の早期黄体化、ミトコンドリアの異常、LHの過剰分泌などが挙げられています。
 De Vos M, et al. Reprod Biomed Online. 2018;37:163–71.
 Chappell NR, et al. F S Rep. 2020;1:125–32.
国内のガイドラインでは高アンドロゲン状態に着目することが多くはなかったですが、今後、意識して観察することで新しい気づきがあるかなと感じています。

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文責:川井清考(院長)

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