自宅にいながら精度の良い精液検査が可能に!(ただし米国の話です)
新しい郵送による精液検査システムの開発と検証、および精液採取1時間後と1時間以上経過した後の精液検査結果の相関の解析
Development and validation of a novel mail-in semen analysis system and the correlation between one hour and delayed semen analysis testing.
Samplaski MK, et al. Fertil Steril. 2021 Apr;115(4):922-929. PMID: 33423785.
はじめに
近年では自宅で精液を採取して、自分のスマートフォンでみてチェックすることもできるようになっています。通信販売でそのようなキットを購入して自分で検査ができます。ただし、精液検査を正確に行うためには、精度を担保した精液検査を行っている医療機関を受診する必要があります。
今回の研究は、自宅で精液を採取して、専用の容器にいれて検査会社まで郵送して精液検査を行うというものです。現在米国では、この"mail-in semen analysis"が普及しつつあり有用性が認められてきています。2024年の米国生殖医学会では、Fellowという会社のmail-in kitに関する発表がいくつもありました。その元となった研究について今回ご紹介いたします。
このmail-in kitは、すでに実用化されていて、現在米国内のアラスカ、ハワイ、ニューヨーク州以外のどこの州でも199ドルで実施可能です。頑丈な専用の箱の中に、精液を入れるカップと、精液の質を保持するための独自の精液用の培養液が入っています。利用者は、カップの中に精液と専用の培養液をいれて、箱に入れてカルフォルニアのFellow社のラボに送り返し、そこで精液検査が行われて結果が返されるというようなシステムになっています。
≪研究の紹介≫
抄録
この研究の目的は、あたらしい郵送での精液検査システムを開発し、検証することで、前向きコホート研究です。精液検査所見正常の男性からの精液を対象として使用しました。
射精1時間後から精液検査を行い、精子の生存率を維持するための処理をして(独自の精液保存用の培養液を使用)52時間にわたって同一検体を用いて精液検査を繰り返して行い、その結果を比較しました。
結果は以下のようになっていました。この研究の検証段階における精液104検体の射精1時間後に行った精液検査では、正常な精液検査のパラメータは正常であったことが確認されています。その後に、52時間後まで測定しました。一検体あたり4回の精液検査を行いましたが、濃度は安定していました。運動率は1時間あたり0.39%低下し、精子正常形態率は1時間あたり0.1%低下しており、計時的に直線的な変化を示しました。1時間後の検査データとその後の計測値での運動率(相関係数0.87)および精子正常形態率(相関係数0.82)には強い相関が認められました。
まとめますと、この新規の郵送による精液検査はCLIA法(臨床検査室改善法:Clinical Laboratory Improvement Amendments*)にもとづいて認証された検査機関で行われるものであり、射精後1時間での精液検査結果と、その後の精液検査測定値の間に強い相関がありました。精子運動率と精子正常形態率の低下が直線的であること、および精子濃度の安定性を考慮すると、この検査は不妊評価のための精液検査として用いることができると考えられます。さらに、この検査を用いることによって、精液検査を行うことや結果を得ることがより簡単でスムーズになり、男性不妊の初期の検査を受けるまでのハードルを下げる可能性が高いです。
* Clinical Laboratory Improvement Amendments(CLIA)認定とは、アメリカで施行されている臨床検査室の精度管理基準を満たしていることを意味します。CLIAは、1988年にアメリカ連邦政府が制定した法律で、国家基準に基づいて小・中規模の臨床検査室の質を保証することを目的としています。アメリカ国内のすべての臨床検査室はCLIA認定を受けることが義務付けられています。
表.検証段階の104の射出精液検体における精液検査のパラメータの経時的な変化
変数 |
検査までの経過時間の中央値(時間) | 範囲 (時間) 最小-最大 |
平均精子濃度 (x100万/mL) | 平均精子総運動率 (%) | 平均精子正常形態率 (%) |
精液検査1回目 | 0.6 | (0.24–1) | 75 | 59.8 | 11 |
精液検査2回目 | 8.5 | (3–12) | 70 | 58 | 10 |
精液検査3回目 | 20 | (12–24) | 70 | 55 | 10 |
精液検査4回目 | 29 | (24–36) | 80 | 50 | 9 |
精液検査5回目 1時間あたりの変化 (95%CI) |
46 | (36–52) | 74 -0.03 (-0.12, 0.06)* |
41 -0.39 (-0.04, -0.35)* |
6 -0.1 (-0.11, -0.09)* |
注:サンプルは5mLの精子用の培地中で、無作為の温度(8℃~35℃)で管理されました。精液検査を5回(射精後1時間以内と追加4時点)、射精後52時間まで実施しました。精子濃度は精液検査を繰り返す際の精子用の培地での希釈倍率で補正しています。
CI=confidence interval。
*濃度 P=0.74;精子総運動率 P<0.0001;精子正常形態率 P<0.0001。
≪筆者の意見≫
クリニックに受診せずに、正確な精液検査をうけることができるこの郵送システムは、クリニックが近くにない場所に住んでいる場合や、忙しくて受診できないような方には良いと思います。199ドルというと日本では3万円ですが、米国では健康保険のシステムが違うので、もともと精液検査は自費の検査のようで日本よりかなり高価なのと、交通費を考えるとリーズナブルなようです。国がとても大きく公共の交通機関も限られているので、都市部から離れていると受診するだけでも大変だと考えられます。日本では利用できませんが、同様なサービスがあると良いと思います(価格によるとはおもいますが)。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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