妊娠周辺期HbA1c高値と児の先天性心疾患(Hum Reprod. 2024)
HbA1cは、過去8~12週間の母親の血糖恒常性の平均値を表しています。糖尿病女性の出産時には流産、死産、新生児先天性奇形が多いことがわかっています。また、「子どもの健康と環境に関する全国調査 (エコチル調査) 」でも、女性が1型糖尿病、2型糖尿病の場合、血糖値が正常な女性と比べて、妊娠時の早産や妊娠高血圧症候群、新生児黄疸が多いことが報告されています(Hiroshi Y, et al. PLoS One. 2022 Jun 6;17(6):e0269610. )。今回は、妊娠周辺でのHbA1c値と先天奇形との関連を示した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
妊娠周辺期に女性がHbA1c 5.6%を超えると、子供に先天性心疾患が生じるリスクが高まります。また女性が糖尿病にかかっている場合、HbA1cが正常範囲内であっても子供に先天性心疾患が生じるリスクが高くなります。
≪論文紹介≫
Ran S Rotem, et al. Hum Reprod. 2024 Oct 15:deae233. doi: 10.1093/humrep/deae233.
妊娠周辺期における女性の妊娠糖尿病および妊娠前高血糖が、その子供の先天性奇形が生じるリスクにどのような影響を与えているか、2001年から2020年に生まれた46,534名のイスラエル人新生児を対象とし調査した大規模出生コホートです。女性のHbA1c 検査結果は、妊娠90日前から妊娠中期まで測定しました。女性の糖尿病、その他の代謝性疾患、新生児の先天性奇形は、臨床診断、調剤記録、検査結果にて確認しました。
結果:
妊娠周辺期の女性におけるHbA1c値は新生児の心奇形と関連しており5.6%を超えると上昇し始めます。HbA1cと先天性心奇形の関連性は、他の糖尿病グループと比較して、2型糖尿病の女性でより強いものでした。女性が以前から2型糖尿病を患っている場合、HbA1c値やその他の代謝性合併症を考慮した後でも、先天性心奇形との関連が認められました(OR 1.89、95% CI 1.18、3.03)。また、糖尿病薬の服薬アドヒアランスが高くHbA1c値が正常化している2型糖尿病女性でも、患っている母親のみを考慮した場合でも先天性心奇形のオッズ比はほとんど変化しませんでした。
≪私見≫
HbA1c値が正常化している2型糖尿病女性でも奇形率が高くなる理由を下記のように考察しています。
①糖尿病に伴う酸化ストレス、脂質代謝の変化、シグナル伝達経路の変化、②他の代謝障害や炎症性疾患が併存していること、③糖尿病と関連するいくつかの遺伝的変異は、高血糖に依存しない経路を通じて影響を及ぼす可能性、④糖尿病リスクを高める何らかの環境因子への曝露、⑤糖尿病治療自体が関連、などである。
糖尿病治療自体が関連は否定的とされているので、①〜④の複合要因も否定できません。プレコンセプションでの関わりが重要になってきますね。
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文責:川井清考(院長)
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