ホルモン採血のみで精液所見を予測可能に
≪研究の紹介≫
精液検査を用いず、血清ホルモン値から男性不妊リスクを判定する新しいAIモデル
A new model for determining risk of male infertility from serum hormone levels, without semen analysis.
Kobayashi H, et al. Sci Rep. 2024 Jul 31;14(1):17079. doi: 10.1038/s41598-024-67910-0. PMID: 39085312.
はじめに:
男性の生殖機能の評価の第一歩は精液検査です。精液検査はどこの医療機関でもできるわけではなく、また、精液検査は男性にとって負担になっている場合もあるようです。今回の研究は、東邦大学の小林准教授のグループからのもので、血液検査のみで男性の生殖機能(精液検査所見)を予測する試みです。
要旨:
この研究では、血清ホルモン値とAI(人工知能)予測解析のみを用いた男性の生殖機能のスクリーニング法を検討しました。
対象となった3662例中、NOA(非閉塞性無精子症)、OA(閉塞性無精子症)、極少精子症(cryptozoospermia)、乏精子症および/または無精子症、正常、射精障害はそれぞれ448例、210例、46例、1619例、1333例、6例でした。
男性の生殖機能「正常」は、WHO(世界保健機関)の2021年ヒト精液検査マニュアルに従って、精液所見が正常である場合と定義しました。年齢、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、PRL(プロラクチン)、テストステロン、E2(エストラジオール)、T(テストステロン)/E2比をカルテから抽出しました。総運動精子数9.408×106(1.4ml×16×106/ml×42%)を正常下限としました(WHOの精液検査パラメータの精液量、精子濃度、精子運動率の下限基準値から算出)。Prediction OneベースのAIモデル(男性の生殖機能が正常かどうかの予測)のAUC(曲線下面積)は74.42%でした。AutoML Tablesベースのモデルでは、AUC ROC(receiver operating characteristic)は74.2%、AUC PR(precision-recall)は77.2%でした。パラメータの重要度を1位から3位までランキングしたところ、FSHが他の因子を大きく引き離して1位でした。T/E2とLHは、Prediction OneとAutoML Tablesの両方で2位と3位にランクされました。2021年と2022年の臨床データを用いてPrediction OneベースのAIモデルを検証したところ、NOAの予測結果と実際の結果は両年とも100%一致していました。
≪筆者の意見≫
小林先生は、AIを用いた研究もとても得意で以前にもご紹介したことがありましたが(AIでマイクロTESEでの精子採取を予測可能!)、今回はそれを発展させたものだと思われます。
精液検査は重要な検査であるものの、精液検査を実施している医療機関が限られていて、アクセスが悪い場合があります。今回の研究は、血液検査の性ホルモン値のみで精液検査が正常かどうかを判定でき、AUC74%と高い結果でした。血液検査ならどこの医療機関でも実施できますので、汎用性はとても高いと思いました。AIモデルは、Sony Network Communications社のPrediction OneとGoogle社のAutoMLの二つが用いられていますが、どちらでも同様の結果でした。
現在の男性不妊症のガイドラインでは、"精液検査で精子数の異常を認める場合には内分泌検査(黄体化ホルモン[luteinizing hormone;LH],FSH,テストステロン)を行うことが推奨される。"としていますが、このような研究結果が蓄積されればガイドラインの記載も変わっていくかもしれません。
だれでもこのAIモデルを利用できるようにしてもらえると良いと思います。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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