血流のある絨毛遺残による待機療法(Taiwan J Obstet Gynecol. 2023)

流産または中絶後の血管保たれた絨毛遺残(RPOC-EMV/AVM)の基本的な方針は、残存絨毛の除去となります。手術をして絨毛遺残を摘出することが選択肢となってきますが、除去時の大量出血のリスクを考えるとクリニックではなかなか対応困難です。待機療法として自然経過以外に行えることはあるのでしょうか。
流産または中絶後の血管保たれた絨毛遺残(RPOC-EMV/AVM)に対してエストロゲン・プロゲスチン療法を行なった報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

ノルエチステロンを含むエストロゲン・プロゲスチン療法はRPOC-EMV/AVM に有効そうです。

≪論文紹介≫

Munekage Yamaguchi, et al. Taiwan J Obstet Gynecol. 2023 Sep;62(5):661-666. doi: 10.1016/j.tjog.2023.07.006.

妊娠20週未満の流産または中絶後にRPOC-EMV/AVM が認められた女性で、エストロゲン・プロゲスチン療法が実施された症例に対して後方視的観察研究を実施しました。患者背景、ホルモン状況、超音波検査所見、転帰を評価しました。
結果:
RPOC-EMV/AVMを認める女性35名のうち、30名(86%)が診察時に性器出血を認め、6名(17%)は大量出血のため入院管理が必要となりました。性器出血を認めた女性では、性器出血を呈さなかった女性と比較して、血清プロゲステロン値が低く(0.25 vs. 6.5 ng/mL、p = 0.004)、血清hCG値(10.5 vs. 3.1 mIU/mL)または血清エストラジオール値(65.4 vs. 162.3 pg/mL)に差は認められませんでした。初回エストロゲン・プロゲスチン療法の消退性出血後、30名中27名(90%)の女性で性器出血が止まり、23名(66%)で薄く線状の子宮内膜が認められました。全女性が最大2回のエストロゲン・プロゲスチン療法で治療でき、追加の介入は必要ありませんでした。初回エストロゲン・プロゲスチン療法のhCG正常化までの期間の中央値は24.5(9-88)日でした。

≪私見≫

実際の投与方法は以下の通りです。
結合型エストロゲン(Premarin®0.625mg錠1日2回)とノルエチステロン(Norluten®5mg錠1日1回)が10日間から最大30日投与。カラー・ドップラーによる血流の消退により判断しています。今回の研究では2クールまで実施しています。
今回の研究ではホルモン値を評価していますが、ここは何とも言いにくい部分があります。流産術後、排卵は戻ってきているのか、戻ってきていないのか、月経周期のどのステージにあるのかがわからないからです。

今回の検討は術後2ヶ月目から介入をしています。

流産排出後、血清中hCG値は約30日で陰性化するとされています。
 K.T. Barnhart, et al. Fertil Steril 2004
RPOCでは低レベルのhCGが継続することが多いとされていますが、hCG測定は術前評価として寄与しないとされています。
 N. Smorgick, et al. J Minim Invasive Gynecol 2022
診断時の血清hCG値はRPOC重症度と相関しませんが、経過観察中の血清hCG値の低下は、初期値に関係なく血流の程度と相関しているようです。
 S. Shitanaka, et al. J Obstet Gynaecol Res 2020

毎日毎日、論文を読んで、患者を見ていても、こんな限られた分野に特化しても知らないことが多すぎる。医療は奥深いですね。

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文責:川井清考(院長)

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