血流のある絨毛遺残による管理指針(Ultrasound Obstet Gynecol. 2024)

血流のある絨毛遺残をEMVという診断として治療方針を定めていこうという流れがあります。EMV(enhanced myometrial vascularity)は流産・分娩後の子宮筋層(絨毛,胎盤の接地部位)の異常に発達した血流とされています。2016年に提唱された比較的新しい概念となります。子宮動静脈奇形(arteriovenous malformation; AVM)は異常な動静脈短絡が子宮筋層内に発生したものを指す概念とされていて別個な病態だと考えられていますが、目視できない絨毛組織の存在を否定できないため、さまざまな報告をみても、用語として混在して使われていることが多いです。
EMV(enhanced myometrial vascularity)の管理指針の報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

K Dewilde, et al. Ultrasound Obstet Gynecol. 2024 Jan;63(1):5-8.  doi: 10.1002/uog.27476.

EMVの発生率は1.5~6.3%であると報告されています。
妊娠中には、放射状動脈→らせん動脈→絨毛(胎盤)床と流れた血流は静脈を介し循環します。絨毛(胎盤)床には高圧の動脈系と低圧の静脈系との直接的な接続が存在するわけですので、滞留した妊娠組織が完全に排出されないと(自然に排出されるか、外科的介入によって)、高速の血管は退縮しない結果、EMVとして残ったままになります。つまりEMVは生理的な所見と考えてもおかしくありません。流産後、分娩後にEMVが存在する場合、絨毛(胎盤)組織が残っているため、最も高速血流が残っている可能性が高いので、残存組織を排除してあげることが改善の近道となります。

EMVの管理
大量出血がない場合、EMVは経過観察で問題ありません。
絨毛(胎盤)組織が排出されるのに伴い、EMVは消失するはずです。絨毛(胎盤)組織の外科的除去後、数分以内にEMVが速やかに消失したという報告もあります。大量出血や持続的な出血がある場合、あるいは妊娠希望がありEMVにより妊孕能が低下していると判断した場合のみ、外科的処置を検討すべきとされています。広範囲のEMVが認められる場合は、大量出血が起こる可能性を事前に説明しておく必要があります。ドプラエコーで収縮期最大血流速度(peak systolic velocity; PSV)などを測定し、出血リスクを評価できるという報告もありますが、まだまだエビデンスに乏しく管理指針で組み込む段階とはされていません。
モニター方法は超音波検査となります。絨毛(胎盤)組織がどこに残っているかマッピングすることや経過管理に重要です。
視野が確保されている場合は、子宮鏡手術で絨毛組織除去が好ましいとされています。出血が続いていて視野確保できない場合などには、盲目的に組織除去をする子宮内膜全面掻爬術を検討します。
残留絨毛(胎盤)組織が完全に除去されれば、EMVは消失し、出血は通常止まるはずです。手術を行って残留絨毛(胎盤)組織を目視できる範囲で除去しても持続的に出血する場合には、双合診による子宮マッサージ、子宮収縮薬やトラネキサム酸の投与などを行いつつ、バルーンカテーテルを2~24時間留置する圧迫止血、それでもコントロールがつかない場合は選択的動脈塞栓術を検討すべきとされています。

≪私見≫

絨毛遺残に伴う流産・分娩後の子宮筋層(絨毛,胎盤の接地部位)の異常に発達した血流がある場合はRPOCーEMV/AVMとしておくのが無難かなと思います。
流産術後にEMVを起こさないのはできる限り絨毛組織を残さない流産手術を実施することが重要です。ただし、あまり積極的な子宮内容物除去は内膜へのダメージにつながるのでバランスが難しいところですね。

EMV(enhanced myometrial vascularity)を定義づけしら報告は下記となります。
Ilan E Timor-Tritsch, et al. Am J Obstet Gynecol. 2016 Jun;214(6):731.e1-731.e10.  doi: 10.1016/j.ajog.2015.12.024.

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文責:川井清考(院長)

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