精索静脈瘤手術の効果についての大規模研究の結果です。

≪研究の紹介≫

精索静脈瘤手術は精液検査のパラメータを改善するか?手術前後のデータのメタアナリシス

Does Varicocele Repair Improve Conventional Semen Parameters? A Meta-Analytic Study of Before-After Data.

Cannarella R, 他World J Mens Health. 2024 Jan;42(1):92-132. doi: 10.5534/wjmh.230034. PMID: 37382284.

精索静脈瘤手術によって男性の生殖機能が改善するかどうかはある程度のコンセンサスが得られており、顕微鏡下精索静脈瘤手術も保険収載されています。 ただ、もととなるデータは小規模な症例のものが多く、多数の症例の解析はあまりありませんでした。 可能な限りのデータを集めて解析した結果が今回の研究の結果です。

≪研究の要旨≫

このメタアナリシスの目的は、臨床に精索静脈瘤を有する不妊男性の最大規模のコホートにおいて、精索静脈瘤手術の効果を検討することです。

対象と方法は次のようになっています。 メタアナリシスはPRISMA-PおよびMOOSEガイドラインに従って行われました。 Scopus, PubMed, Cochrane, Embaseの各データベースで系統的な検索が行われました。 対象となる研究はPICOSモデル[集団, 臨床に精索静脈瘤を有する不妊男性患者;介入, 精索静脈瘤手術;比較, 同一症例での精索静脈瘤手術修復前後;結果, 従来の精液検査パラメータ;研究タイプ,ランダム化比較試験(RCT), 観察研究, 症例対照研究]に従って選択されました。

結果: スクリーニングされた1,632の研究のうち、351の研究(23のランダム化比較試験、292の観察研究、36の症例対照研究)がメタアナリシスに含まれました。手術前後の比較の解析では、精索静脈瘤手術後の精液パラメータのほとんどにおいて有意な改善が示されました(精子生存率sperm vitalityを除く)。

  • 精液量:標準化平均差(standardized mean difference, SMD*)0.203,95%CI:0.129-0.278;p<0.001.
  • 精子濃度:SMD 1.590, 95% CI: 1.474-1.706; p<0.001.
  • 総精子数:SMD 1.824, 95% CI: 1.526-2.121, p<0.001.
  • 総運動精子数:SMD 1.643, 95% CI: 1.318-1.968, p<0.001.
  • 精子前進運動率:SMD 1.845, 95% CI: 1.537%-2.153%; p<0.001.
  • 精子総運動率:SMD 1.613, 95% CI 1.467%-1.759%; p<0.001.
  • 精子正常形態率:SMD 1.066, 95% CI 0.992%-1.211%; p<0.001.

結論:
結論は以下のようになります。 今回のメタアナリシスは、精索静脈瘤患者のpaired解析を用いたこれまでで最大のものです。 また、今回のメタアナリシスでは、臨床な精索静脈瘤を有する男性不妊患者において、精索静脈瘤手術後にほぼすべての精液検査パラメータが有意に改善しました。

表. 精索静脈瘤手術前と後の精液検査のパラメータの分析結果

パラメータ 術前 (n) 術後 (n) SMD 95% CI p値 Heterogeneity(異質性) 出版バイアス
I2 p値 Egger検定
精液量 12,566 10,825 0.203 0.129 to 0.278 <0.001 83.62% <0.001 0.3329
精子濃度 32,577 31,771 1.590 1.474 to1.706 <0.001 97.86% <0.0001 <0.0001
総精子数 5,593 5,337 1.824 1.526 to 2.121 <0.0001 97.88% <0.0001 0.0063
総運動精子数 6,396 6,274 1.643 1.318 to 1.968 <0.001 98.65% <0.0001 0.0003
精子前進運動率 10,454 10,252 1.845 1.537 to 2.153 <0.001 98.97% <0.0001 <0.0001
精子総運動率 22,326 21,898 1.613 1.467 to 1.759 <0.001 97.98% <0.0001 <0.0001
精子正常形態率 21,979 21,335 1.066 0.922 to 1.211 <0.001 97.87% <0.001 0.1864
精子生存率 597 555 -1.310 -2.112 to -0.509 0.001 98.50% <0.0001 0.0807

用語の説明:
; 異質性(Heterogeneity)つまり、各研究結果の偏りを表すものです。 (評価の目安: 25% low heterogeneity, 50% moderate heterogeneity, 75% strong heterogeneity. 異質性が小さいほうがより信頼性が高まります)
Egger検定; 出版バイアスの可能性を評価する検定です。 有意な場合には出版バイアスがあるということになります。 統計的に有意な結果を得た研究結果は、ネガティブな結果を得た研究よりも公表される確率がはるかに高いことが示唆されています。 研究者が否定的な結果の公表を控えることによるバイアスが生じる可能性があることからこの検定が必要になります。
*SMD; 簡単には介入群とコントロール群の平均値の差を標準偏差で割った値です。 0.2は小さな効果、0.5は中等度の効果、0.8は大きな効果という考え方があります。

≪筆者の意見≫

これまでのメタアナリシスは実際の精液検査の値の差を出したものだったのですが、今回の研究はSMDという表現で表しているので少し分かりにくいです。 最近はSMDを用いて効果を示すことが多くなっているようです。
研究では以下のようなとても控えめな考察が示されています;今回のメタアナリシスで観察された精索静脈瘤手術が精液検査パラメータを改善させる効果は、対象となった研究のheterogeneityが顕著であること、プラスの結果(良い結果)を示した研究に対する出版バイアスのリスクがとても高いことから、限定的であるとしています。 たしかに、精液量、精子正常形態率、精子生存率以外は出版バイアスがあり、全てのパラメータで、heterogeneityが有意に高いという結果です (表)。
そうは言っても、精索静脈瘤手術によってほとんどの精液検査のパラメータが改善したことが確かめられたことは意義深いです。 SMDは低めですが、精液量も有意に増加することが示されたことは特筆すべきと考えられます。 精索静脈瘤手術をするとどうして精液量が増加するのかその機序がわかると良いと思っています。また、総精子数が有意に増加することを始めて示した研究ということでした。 一方、精子生存率(sperm vitality)は有意に低下することが示されており、これまでの研究では示されていなかった結果で、原因は不明です。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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