予後良好そうな不妊患者にPGTは不要(Fertil Steril. 2024)
着床前診断(PGT-A)は、予後良好不妊患者において生殖予後を改善するという報告がある一方、PGT-Aの侵襲的手技に対する胚ダメージから生児出生率が低下するとする報告まで出てきています(Kushnir V.A., et al. Fertil Steril. 2016; 106: 75-79、Wilkinson J., et al. Fertil Steril. 2023; 119: 910-912)。予後良好不妊患者においてPGT-Aは一年以内の妊娠に有用かどうかを調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
予後良好不妊患者においてPGT-Aを用いた体外受精は、一年間の胚移植での累積出生率で改善を認めません。
採卵数が15個未満の場合、PGT-A群は通常体外受精IVF群よりも低い流産率を示しましたが、累積出生率は高くなりませんでした。
≪論文紹介≫
Min Hu, et al. Fertil Steril. 2024 Jul;122(1):121-130. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.023.
PGT-Aと通常体外受精における生殖予後を、回収卵子数と胚盤胞数で分類し比較することを目的とした多施設ランダム化比較試験の二次解析です。
PGT-Aまたは通常体外受精に予後良好不妊患者1,212名を対象としました。
評価項目は累積生児出生率、流産率としました。
結果:
回収卵子数または胚盤胞数の四分位数に基づいて4群に分けました。
基本、回収卵子数・胚盤胞数によって累積生児出生率、流産率など生殖予後はほぼ同等でした。
差がついたのは以下の場合のみです。
回収卵子数15個未満の場合、PGT-A群は通常体外受精群と比較して流産率(妊娠反応陽性からの流産率)が低くなりました(PGT-A群 vs. 通常体外受精群:5.9% vs. 13.7%;相対リスク=0.430;95%CI 0.243-0.763)。回収卵子数19~23個の場合、PGT-A群は通常体外受精群よりも低い累積生児出生率を示しました(PGT-A群 vs. 通常体外受精群:75.6% vs. 87.1%;相対リスク=0. 868;95%CI 0.774-0.973)、PGT-A群の新生児平均体重は従来の通常体外受精群より142g低くなりました(PGT-A群 vs. 通常体外受精群:3,334±479g vs. 3,476±473g)。
≪私見≫
予後良好群の当報告の基準として、女性年齢20~37歳・良質胚盤胞(day5 4BC以上)が3個以上準備できた患者としました。回収卵子数の四分位は15、19、23個であり、良好胚盤胞数の四分位は5、7、9個でした。
この論文の面白いところは、体外受精1年後までに3回の胚移植をしたときの累積生児出生率としたところです。つまり、Time to pregnancyに意識できる期間が1年後まで3回の胚移植と限定としたときに生殖予後良好群にはPGTは意味がないことになります。もちろん、1日でも早く妊娠したいという気持ちは大事ですが、その気持ちを逆手にとってPGTを勧めるのは一般的ではないと感じています。
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文責:川井清考(院長)
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