胚長期保存は生殖医療予後に影響を与える可能性(Hum Reprod. 2024)

ガラス化凍結胚の長期保存に関する動物実験では、マウスでは生殖医療予後の低下を認めましたが、ウシやブタでは認められていません。
ヒトでの報告では、胚凍結保存期間が妊娠転帰に影響しないとする報告もありますが(Liら、2017;Uenoら、2018)、悪影響を及ぼすことを示した報告もあります(Cuiら、2021;Liら、2020;Zhangら、2021;Maoら、2022)。Cuiらが小標本ながら示した5年をカットオフに胚凍結保存期間が治療成績に影響を与えているかどうか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

良質胚盤胞を5年以上ガラス化凍結保存することは、着床率および生児出生率は低下するが微々たる変化である可能性が高いです。

≪論文紹介≫

Shaoquan Zhan, et al. Hum Reprod. 2024 Jul 3:deae150.  doi: 10.1093/humrep/deae150.

5年以上の胚ガラス化凍結保存は、凍結融解胚移植転帰に影響を与えるかどうか調査したレトロスペクティブ研究です。2016年1月1日から2022年12月31日に中国の単一不妊治療センターで行われた凍結融解胚移植36,665周期を対象としました。胚保存期間によりグループ1(0~2年)は31565周期、グループ2(2~5年)は4,458周期、グループ3(>5年)は642周期と分類しました。主要評価項目は着床率と生児出生率、副次評価項目は生化学的妊娠率、多胎妊娠率、子宮外妊娠率、流産率、および新生児転帰としました。
結果:
3群(0~2年、2~5年、>5年)における着床率はそれぞれ37.37%、39.03%、35.78%(P = 0.017)、生児出生率はそれぞれ37.29%、39.09%、34.91%でした(P = 0.028)。交絡因子を調整した結果、0~2年保存群と比較して、保存期間が長い群(2~5年または5年以上)は、生化学的妊娠、多胎妊娠、子宮外妊娠、流産などには影響を及ぼしませんでした(P>0.05)。しかし、5年以上の胚凍結保存は着床率(aOR 0.82、95%CI 0.69-0.97、P = 0.020)と生児出生率(aOR 0.76、95%CI 0.64-0.91、P = 0.002)を低下させました。多変量層別解析でも、胚盤胞の凍結保存期間を延長(>5年)することで、着床率(aOR 0.78、95%CI 0.62-0.98、P = 0.033)と生児出生率(aOR 0.68、95%CI 0.53-0.87、P = 0.002)が低下することがわかりました。しかし、初期分割期胚への影響は認められませんでした(P > 0.05)。また、5年以上の長期保存では、良好胚盤胞で成績は低下しましたが、不良胚では低下しませんでした。新生児転帰に関しては、早産率、胎児出生体重、新生児性比に影響を及ぼしませんでしたが、保存時間が長くなるにつれて、SGA率(5.60%、4.10%、1.18%)は減少し、LGA率(5.22%、6.75%、9.47%)は増加しました(P < 0.05)。交絡因子を調整しても、LGA率の増加およびSGA率の減少は、保存期間と有意な相関が認められた。

≪私見≫

胚の長期保存は凍結融解胚移植に対して影響を与える可能性があるが微々たる差であるという印象です。ただ、保存する環境は重要ということを示唆していると思います。

ちなみに、国内の報告は8736周期のレトロスペクティブコホート研究で確認されています。生児出生率は保存期間0~2ヵ月(4702周期)で37.3%、2~13ヵ月(2853周期)で34.9%、13~97ヵ月(1181周期:最長8年)で35.2%と差を認めないとされています。
Satoshi Ueno, et al.  Reprod Biomed Online. 2018 Jun;36(6):614-619.  doi: 10.1016/j.rbmo.2018.03.008.

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文責:川井清考(院長)

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